sasanoji電台【台湾ポップス専門】

こちらはsasanoji電台第1廣播、TW-POP専門チャンネルです。

sasanoji radio Awards 2012、決定!

Best Group

歐開合唱團O-Kai Singers『O-Kai A Cappella』

Okai-singers2012 

最初に決定したのは、この【Best Group】部門でした。候補選びの時点で既に新寶島康樂隊と歐開合唱團のどちらか…という状況だったので、あとの4組にはちょっと申し訳なかったですネ。もちろんその4組も高く評価していますヨ、みんな大好きです^^。でも、新寶島康樂隊と歐開合唱團から受けた印象は圧倒的でした。結果的に2組とも台湾人の、あるいは原住民族のアイデンティティを前面に出した活動をしているグループということになりましたが、このボーカルグループというスタイル自体が、純粋に『台流』を表現するのに適した単位なのかもしれません。とくに世界を舞台に活躍する原住民族出身の歐開合唱團は、アカペラグループであるが故にそれが際立ってクリアに感じられました。つい先日、縁あって東京・浅草で行なわれた中華民国僑務委員会主催による春節コンサートを観覧する機会を得たのですが、台湾からの訪問団として、許景淳、王柏森、王俊傑、盧耿峰らと共に歐開合唱團も来日していました。実際に彼らの歌声を間近で聴いて、自分の耳は間違っていないと確信しました。2012年の【Best Group】は歐開合唱團です。これは個人的感想というだけでなく、台湾のあらゆる音楽賞で取り上げていい、まさに『台灣之光』だと思います。

 

Best Band

Juzzy Orange『Orange City』

Juzzy-orange2012 

全部門の中でココがいちばん難しかったです。かなり迷いました。候補に挙げた6枚を繰り返し聴いて、なんとかJuzzy Orangeと謊言留聲機の2つに絞り込み、最終的にJuzzy Orangeを選びました。決め手となったポイントは、アルバムとライブ相互の再現性です。YouTubeにUPされているJuzzy Orangeのライブ映像を見てまず強く感じたのが、女性ボーカル・開水小姐Miss Waterの安定度の高さでした。開水はアカペラグループ・魔術方塊人聲樂團Cube Singersのメンバーでもあり当然といえば当然なのですが、ライブでもアルバムと遜色のないクオリティのボーカルを聴かせてくれていて、これが安心感に直結しました。聴きやすいと感じました。DJやリズムセクションについても同様の印象です。もしもアルバム単体、あるいはバンドとしての存在感といった部分を重視したなら、候補から外したバンドも含めてまた違った選択になったのかもしれません。今回はトータルでの安定感、安心感をより強く感じたJuzzy Orangeを、個人的2012年【Best Band】としました。どちらが劣っているかなどという単純な話ではありません。とにかく両方ともメチャクチャかっこいいです。一聴してビビッと来たなら買って損はしないアルバムだと思いますヨ^^。

 

Best Newcomer

謝沛恩Aggie『What's Mine』

Aggie2012 

ココもかなり迷いました。迷いましたが最終的に謝沛恩Aggieを選びました。ポイントはどこだったかと問われれば…、それが自分でも曖昧なのです…。実力はWantingだと思いました。安定感ではRobynn & Kendy、陳思函ですし、白安の個性、呂薔の歌唱力、Asian 4 Frontの洗練度、アイドルっぽい外見とは裏腹の正統派・火星熊も捨てがたかった。では何が勝っていると感じたのか。ジャケットは、たしかに8枚の中ではいちばん好みです^^。そう、このCDをプレーヤーにセットして韋禮安提供の1曲目『漂流木』、彼女の第一声が聞こえてきた瞬間、『ほわぁ…』と声ともつかない感嘆の息を漏らしたことは憶えています。そこに新人らしいキラキラした瑞々しさと危なっかしさ、独特の浮揚感、それと同時に新人らしからぬ芯の太さ、スケールの大きさが見えた気がして、なんだか微笑ましく思えてしまったのです。そのフワフワとした不安定な光は聴き進んでいくうち徐々にしっかりとしてきて、彼女が作曲をした3曲目『不是不愛我』で一気に輝きを増しました。続く『獨一無二的女孩』は許哲珮提供の曲で難しいはずですが、これも見事に自分らしく歌いこなしています。このフワフワ、キラキラと輝くものを、可能性、あるいはスター性と呼んでいいのかは…わかりません。でも僕にはいちばん眩しく感じられたのです。候補から外した新人たちと、いま改めて比べてみても、そう感じます。選んだ理由を挙げるとすれば、そこでしょうか…。

 

Best Music Video

新寶島康樂隊New Formosa Band『家在高士』

New-formosa-band2012 

この部門がいちばん気がラクで、楽しい^^。台湾の音楽業界には『奇怪ね~』と思うところがいくつかあって、国土面積、人口に対する尋常ではないレーベル(インディーズ含めて)の多さもそうですが、毎度毎度手の込んだ造りのCDジャケットにはいったい幾ら費用が掛かっているのだろうとか、MVはもうそのままドラマや短編映画になってしまいそうなくらい傑作揃いで、この全力具合はいったい何なのだろうとか。日本同様台湾の音楽業界も不況のはずですが、伝わってくるのはアーティストや制作者たちの楽しげな様子ばかりなのです。それが楽天的な台湾人気質というものなのでしょうか…。新寶島康樂隊の『家在高士』は、陳世隆(阿VON)と娘(阿VONの愛娘・陳艾ちゃん)を執拗にイジメる街のチンピラ・陳昇Bobby Chenと黃連煜Ayugoが、最後2人に復讐されるというストーリー。皮肉たっぷりのコミカルな演技で笑わせてくれますが、実際はかなりシリアスな社会問題を扱っています。とくに歌詞は山間集落の人口流出、児童減少による教育環境の衰退や遠隔地に於ける就学問題、文化伝承問題など、教師でもある阿VONの実体験を基にしています。難しいテーマでありながら深刻にならないのは、やはり陳昇のキャラクターに依るところが大きいのでしょう。阿美族の伝統歌謡部分を歌った阿VONの愛娘・陳艾ちゃんの芸達者な姿も印象的でした。重すぎず、かと言って軽すぎもしない、楽曲と映像が絶妙のバランスでまとまった一編だと思います。僕はこの作品を2012年度の【Best Music Video】に選びました。

 

Song of the Year

史茵茵Ying-Ying Shih『送給阿嬤的歌』

yingying-shih2012 

この曲を収録した同名EP『送給阿嬤的歌』と易桀齊の『Let It Rain』は共に昨年2月のリリースでしたが、いま思えばそのときにはもう2つのうちのどちらか…と、なんとなく決めていたのかもしれません。あとはコレと比べてどうか…というような選び方をしていた気がします。史茵茵の『送給阿嬤的歌』は、2012年最も涙を流させた曲です。イントロが始まって30秒足らずで涙腺が緩み、『你教我舉箸、你教我寫字…』、50秒で崩壊していました。MVがまた卑怯なくらい強力で、僕は祖母と一緒に暮らしたことはないのですけど、それでも『おばあちゃん』の優しさをジンワリと思い出させてくれました。結局コレに勝る感動を残した曲は最後まで現れず、唯一『Let It Rain』だけはかなり悩みましたが、最終的に『痛さ』よりも『優しさ』を取って、『送給阿嬤的歌』を2012年の【Song of the Year】に選びました。何度聴いてもジ~ンと心に沁みる、本当に良い歌だと思います。

 

Best Female Artist

徐佳瑩LaLa Hsu『理想人生』

lala-hsu2012 

現在28歳。オーディション番組『超級星光大道』第3シーズン(2008年)でチャンピオンとなり、2009年にCDデビュー。まだ4年経っていない。にもかかわらず漂う、この10年選手のような風格。前作から1年9ヶ月。徐佳瑩はこの間ジャンルを越えて様々なアーティストと共演し、新人・ベテランを問わず、楽曲提供も積極的に行なってきました。オモテには出ずとも彼女の名前を見る機会は少なくなかったはずです。あの小さな身体に着々と栄養を蓄えている様子が窺えました。そしてリリースされた3rdアルバム『理想人生』、当然評価は様々あるでしょう。ラストまであまりにもスムーズに聴けてしまうため、中には物足りなく思ってしまう人もいたかもしれません。でもそれはアルバムという作品単位で見て破綻が無いことの証しでもあります。LaLaは僅か3年で、アルバムを自身の色でトータルコーディネートすることに成功したのです。一曲一曲がまるで映画の一場面を観ているかのように淀みなく流れていく…、この完成度の高さにはトリハダが立ちました。もちろんそこにプロデューサーの手腕があったのは言うまでもないことですが、どの曲からもボーカリスト&メロディメイカー・徐佳瑩の充実した様子を感じ取ることが出来ます。エネルギーが溢れています。2012年度の【Best Female Artist】、僕は徐佳瑩を選びました。最優秀アルバムプロデューサー部門は設定していませんが、陳建騏でいいでしょう。

 

Best Male Artist

曹格Gary Chaw『荷里活的動物園』

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曹格は1歳のときに両親が離婚し、9歳でカナダに渡り、15歳からはニュージーランドで暮らしていました。友人たちと作ったデモテープがたまたま郭富城Aaron Kwokの手に渡ったことで中華圏デビューする機会を得ましたが、おそらくC-POPよりも洋楽のほうが遥かに身近な存在だったはずです。2006年リリースの再デビュー1stアルバム『格格Blue』の1曲目、カナダに住んでいた頃お姉さんと一緒によく聴いたというKaryn White『Superwoman』のカバーが収録されていたことからも、どんな音楽が好みだったのかは明白でした。しかし周囲とのしがらみの中で翼はもがれ、創作意欲は落ち、とうとう歌手を辞めようとまで考えるようになってしまった。その彼に音楽本来の楽しさを思い出させてくれたのが、アルゼンチン発のジャズトリオ・MUSA'sとの出会いでした。枠に囚われないジャズという世界で曹格は徐々に情熱を取り戻し、その後リリースされたこのアルバムから伝わってくる彼の様子は、足かせが外れたかのように奔放で楽しげです。再び翼を得た彼に対して『華語歌曲から遠ざかって、このまま唄の超上手い歌い手さんで終わってしまうようなら非常に残念』などと言う評論家がいるとすれば、それこそ『動物園の檻』が吐く戯言というものでしょう。『Gary Chaw Project Sensation 1 Jazz』も考慮に入れて、2012年の【Best Male Artist】に選びました。

 

Album/EP of the Year

張懸Deserts Xuan『神的遊戲』

Deserts-xuan2012 

TW-POPを積極的に聴き始めてまだ日は浅いですが、中国語が理解出来ないことをこれほどもどかしいと思った、思わされたアルバムは無いです。歌詞は冗長ではありません。でも、その下に込められた彼女が語らんとするメッセージ、その1つにすらじゅうぶんに辿り着けていない悔しさ…。中国語がわかる人たちはどうなのでしょう。ひょっとすると当の台湾人でさえも、一度聴いただけで全てを読み取ることは難しいのではないか…、そう思ってしまうほど聴く者を戸惑わせる作品です。そしておそらく、戸惑わせ、考えさせることこそ彼女が仕組んだ企み。社会に対して無関心であってはならないというメッセージを込めて張懸自身の立ち位置を明確にしつつも、けっして押しつけがましくはない。解釈は繰り返しアルバムを聴きながら自分の経験に基づいてするよう、聴き手それぞれに委ねている。僕らは『神的遊戲』と名付けられた彼女の仕掛けにまんまと乗せられてしまった、まるで『ゲーム』の駒のようです。聴くたび、見えない場所に隠していた記憶を引きずり出されるような感覚に陥ります。徐佳瑩『理想人生』の完成度も捨てがたかったのですが、アルバムコンセプト、アーティストのキャラクター、楽曲スタイルが最後まで息切れすることなくまとまった重量感のあるこの作品を、2012年の【Album of the Year】に選びました。

 

もう少し先にしようかとも思ったのですが、sasanoji radio Awards 2012、決定しちゃいました。あとで見直せばまたアレもあったなぁとか出てくるのでしょうが、いちおうコレが現段階での自分のベストです。こういった遊びを他所のブログでもやってくれると、互いに見比べたりして楽しむことが出来るのに…。誰か~。