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sasanoji radio Awards 2012 【Album/EP of the Year】編

最後は【Album/EP of the Year】部門です。候補は以下の6作品。楽曲個々の魅力はもちろんですが、同時に作品を支えるコンセプトやオープニングからエンディングに至る流れといった、アルバム全体を通しての印象も重視しました。 ジャケットデザイン、装丁なども若干考慮しています。

 

D.D『Miss D.D』(5月)

Dd2012 

 

徐佳瑩LaLa Hsu『理想人生』(6月)

lala-hsu2012 

 

曹格Gary Chaw『Gary Chaw Project Sensation 1 Jazz』(6月)

Gary-chaw2012 

 

張懸Deserts Xuan『神的遊戲』(8月)

Deserts-xuan2012 

 

Juzzy Orange『Orange City』(10月)

Juzzy-orange2012 

 

歐開合唱團O-Kai Singers『O-Kai A Cappella』(12月)

Okai-singers2012 

 

D.Dとは、個性派女性シンガーソングライター・范曉萱Mavis Fanのお母さん、林智娟(リンジージュエン)のことです。林智娟は17歳でメイヴィスを産み、パブシンガーで生計を支えながら女手ひとつで娘を育てました。喉は枯れ、プロ歌手になる夢もあきらめました。そのかわり娘には幼少の頃からしっかりと音楽教育を受けさせた。メイヴィスは18歳で歌手デビューし、現在台湾ポップスシーンの最前線で活躍しています。昨年5月にリリースされたこの『Miss D.D』は、メイヴィスのプロデュースによるお母さん・D.Dの1st EPです。5月の第2日曜日は日本と同じく台湾でも『母の日』。自分を育てるために青春時代を捧げ夢をあきらめたお母さんへの、娘からの大きなプレゼントです。

 

徐佳瑩の3rdアルバム『理想人生』は、映画やミュージカルの音楽監督も務める陳建騏George Chenがプロデュースを担当しています。前作はLaLa本人を含む複数による共同プロデュースということもあって、連続するクライマックスを楽しむスタイルのアルバムとなっていました。今作は一聴すると地味に感じるかもしれませんが、それは1枚のアルバムを通して『理想人生』というストーリーを描くことにポイントを置いたからだと、僕は考えています。緩やかな起伏を伴って流れ始めるオープニング、力強い中盤のピーク、そして情感たっぷりなクライマックスを迎え、最後に配したエンディング主題歌的なナンバー『拉拉隊』が爽やかな余韻を引きつつ締め括っています。ひじょうに完成度の高い作品だと思いました。ただ1つ惜しむらくは、あのチープなダンボール製ジャケット…。アレがもう少ししっかりとしたものであればパーフェクトだったのですけど^^;。

 

デビューして12年になるベテラン・曹格は、ここ数年やりたい音楽を思うようにやらせてもらえない芸能界に嫌気がさして創作意欲が下がってしまい、一時は音楽界から引退することも考えていたそうです。そんな彼に再び音楽への意欲を与えるきっかけとなったのが、2007年頃からアジア地域に進出し中国大陸をメインに活動していたアルゼンチン発のジャズトリオ・MUSA'sとの出会いでした。2010年、曹格とMUSA'sはジャズボーカルバンド・SENSATIONを結成。アジアツアーを行なうなど本格的に活動を開始します。昨年6月にリリースした彼らの1stアルバムからは、いま自分がやりたい音楽はこれなんだという曹格の楽しそうな様子が伝わってきます。MUSA'sの単独パートを別トラックにするなどジャズアルバムとしては構成的に疑問の部分もありますが、それを差し引いてもジャズボーカリスト・曹格を楽しむ1枚として評価出来る作品だと思います。その後、曹格は徐々に創作意欲を取り戻し、昨年11月、2年ぶりとなる自身のアルバム『荷里活的動物園』をリリースしました。

 

3年ぶりにリリースされた張懸の新作『神的遊戲』の印象をひと言で表わすなら、僕は『重量感』でしょうか。もちろん物理的ではなく、心にズシリと残る重さ。張懸はこの世の全ての人、事象、物の間にある流動的な縁を、『神』と表現しました。自分たちは『神的遊戲』、つまり『神のゲーム』上の存在なのだ、と。張懸の書く詞は基本的には文学的でロマンティックですが、社会問題に深い関心を寄せる彼女らしい鋭い刃(メッセージ)がしばしばその中に仕込まれています。それはハッキリと目につく形で置かれている場合もあれば、言葉の裏に潜ませていることもあって、言わんとする意味が見えてきたとき急にその重さを感じてドキリとさせられます。メロディは媚びず、ギター、ピアノ、ベース、ドラムによるダウンテンポサウンドは重厚かつ緻密。曲間の無音部分さえ聴き逃すのが惜しいほど。中国語がわからない僕ですらこの重量感なのですから、これでもしも理解出来ていたら、その重さはどれほどのものだったか…。首波主打となった9曲目『艷火』のみ少し毛色の異なる明朗なロックナンバーで、そこに張懸の照れみたいなものも感じられて微笑ましく思いました。

 

僕はC-POPのCDは全てオンラインショップを通じて購入しています。当然商品が届いて初めて実物を確認することになるわけですが、手にした瞬間の第一印象、満足度は様々です。中身のほうは自分好みであるか否かを相当に吟味し確信を持って購入していますので、これまでハズしたと感じた作品は1枚もありません。ただ、ジャケットデザインや装丁については『これは無いだろぉ~』とか、『こりゃあスゲェ~』と思うようなモノがチョイチョイ出てきます^^。Juzzy Orange(汁橙音樂)の『Orange City』は手にした瞬間、『カッコイイ~!』と思わずつぶやいてしまいました。サイズ的には一般的なCDケースより少し大きいくらい。ハードカバーのブックレット仕様で、都会の夜をイメージさせる黒をベースにタイトルは金箔押し。通りすぎるクルマのヘッドライト状のラインはホログラムです。街の灯りはジャケット本体ではなく、その上に巻かれた半透明の帯のほうに印刷されています。歌詞カード部分はシンプルですが、それぞれのページを敢えて異なる角度でカットして表情を付けたり、ポップアップするとジャケット上部から写真が現れるギミックを仕込むなど、小さな遊び心もあって楽しい。ボーカルディスク『Orange City』とビートテープディスク『Juzzy Apartment』の2枚組CDには全25トラックを収録。オレンジのように多彩な風味を備えた音楽というバンド結成時のコンセプトを明確に表現すると共に、タップリと聴けるハイセンスな楽曲群が所有する満足感を上昇させてくれます。ウチのCDプレーヤーでは現在主役級です。

 

歐開合唱團は2004年に原住民族・泰雅タイヤル族出身の葉4姉弟を中心に結成された男女混声アカペラグループです。世界各地の音楽フェスティバル、コンテストで多数の賞を受賞している実力派で、昨年12月に初めてアルバムをリリースしました。オフィシャルのMVが用意されておらず、音を紹介出来ないのが本当に残念です。過去の映像がYouTube上にありますので、それらを聴いてイメージしてもらうしかないでしょうか。原住民族出身アーティストの素晴らしさにはこれまで何度も感嘆させられてきましたが、混じりっけなしのアカペラがそれをさらに際立たせました。日本でもよく知られているThe Manhattan TransferやTake 6、現代的な雰囲気のRockapella、VOX ONEなど西洋のアカペラグループよりも、ダークダックスやボニージャックス、安田祥子由紀さおり姉妹のような優しさ、温かさ、懐かしさを感じる、『アジア』を意識させてくれるアカペラグループです。角頭音樂TCMリリース作品はジャケットサイズが大判であるため輸送中に折れが発生しやすく、購入に際しては若干の覚悟が必要です。