sasanoji電台【台湾ポップス専門】

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sasanoji radio Awards 2012 【Best Music Video】編

【Best Music Video】部門です。候補は以下の6作品。選んだポイントは、まず1本の短編映像作品として成立しているかどうか。それからストーリーの面白さ、メッセージの強さ、映像の美しさ、楽曲との一体感などです。

 

張靚穎Jane Zhang『秋意濃』(導演:石穎芝,3AQUA Ent.)

Jane-zhanglive2012 
著作権の関係か、Spotify版では欠番となっている。

 

張懸Deserts Chang『玫瑰色的你』(導演:羅景壬)

Deserts-xuan2012 

 

拷秋勤Kou Chou Ching『官逼民反 Part.2 feat. 張睿銓』(導演:李中)

Kou-chou-ching2012 

 

曹格Gary Chaw『誰來陪我唱完這首歌』(導演:周格泰)

Gary-chawhwz2012 

 

周杰倫Jay Chou『紅塵客棧』(導演:周杰倫

Jay-chou2012 

 

新寶島康樂隊New Formosa Band『家在高士』(導演:陳昇,王仁里,劉靜德)

New-formosa-band2012 

 

『秋意濃』は、中国大陸・四川省出身の実力派女性シンガー・張靚穎のライブアルバム『傾聽』収録の1曲。1989年に安全地帯の玉置浩二がリリースしたソロシングル『行かないで』が原曲で、同年12月、フジTV系で放送されたスペシャルドラマ『さよなら李香蘭』の主題歌となり、翌1990年、香港四大天王・張學友が『李香蘭』の曲名で広東語カバーしました。『秋意濃』は、姚若龍作詞によるその國語版です。
本作はライブ映像を収録したDVD付きの2枚組バージョンもリリースされていたようで、上のMVはそこからカットしたものかもしれません。Tony SpruillのソプラノサックスとJakub Groosのピアノ、ジャズスタイルのシックな演出が張靚穎の情感溢れるボーカルに一層の深みを与えています。アルバム全体の景色をイメージさせてくれたMVとして、強く印象に残っている作品です。

 

張懸は社会問題に強い関心を持って活動しているアーティストです。歌詞はメッセージ性が濃く文学的。しかも難解であるため、本来であれば映像を手助けにしたいところですが、その映像のほうがまた難解。『玫瑰色的你』のMVを監督したのは台湾最重要のCMディレクター・羅景壬。『玫瑰色的眼鏡』( rose-coloured glasses… バラ色のメガネ,あるいは楽観的の意)をキーワードに、現代社会の様々な問題を全3章に分けて描いています。

まず第1章『玫瑰色的』には多くの『死』が出てきます。兵士の遺体、射殺された学者、救急車の中に横たわる男のハチマキには『FREE』の文字が見える。バスタブの中で動かない2人は女性?、トイレで自ら命を絶った男、飛び散った鮮血は全てバラの花びらで表現されています。遺体の顔を確認して崩れ落ちる家族の画はどこか北欧でしょうか。映像の中にはたくさんのヒントが隠されていて、どの死も現実にあった事件がモチーフとなっていることを窺わせます。
第2章『你』ではその現場を見つめる男が登場します。どうやら彼は小さな娘と2人暮らしのようです。そして手には一丁の拳銃が握られている。この男は『あなた』。即ち『僕ら』自身でしょう。第1章で描かれた現実、戦争、言論弾圧、奪われる自由、同性愛への偏見、無差別の虐殺、それらを見つめることしかしない『あなた』。握られている拳銃は見殺しの象徴。そして何事も無かったかのように目を背け戻る日常…。痛烈です。第3章『玫瑰色的你』、娘の差し出す一輪のバラの造花に癒されながらも、最後TVのリモコンをまさぐり身近な幸福すら傍観しようとする男の姿に虚しさを感じます。

『玫瑰色的你』の歌詞自体は淡々としていて、痛烈なメッセージなどは書かれていません。でもなんだか、楽天的であってはならないと責められているようで、やっぱり痛いです…。個人的【Song of the Year】のほうには入れませんでしたが、音樂推動者大獎や中華音樂人交流協會による年度十大優良單曲にはおそらく選ばれるだろうと思っている1曲です。

 

拷秋勤は第19屆、第21屆金曲獎で最優秀バンド部門にノミネートされた、客家語と閩南語をメインとする実力派ヒップホップバンドです。『官逼民反 Part.2』では日本による台湾の植民統治開始から20年後の1915年、まだ抗日運動が激しかった時期に起こった最大規模の武力抗日事件『西來庵事件』について歌っています(Part.1は清朝時代、Part.3も現在準備中)。
張懸の後に見るとメッセージがストレートでわかりやすいですね。日本人にとっては重いですが、これからも台湾を好きでいたいのならば、ぜひ知っておかなければならない歴史だと思います。

 

曹格と周杰倫は純粋に映像作品として楽しめました。曹格はやや前衛的ではありますが、よく出来てますね~、このジオラマ。CGじゃないですよね?周杰倫も見応えがありました。これはロングバージョンをぜひ見てみたいですね。

このブログに周杰倫が出てくることはほとんどありませんが、でも嫌ってるワケではないのです。周杰倫だってちゃんと評価しているのですよ~^^。

 

新寶島康樂隊は~、笑いましたww。こういうチンピラいそうですよね~、向こうには^^。でもこれは陳昇たちが皮肉を込めて面白おかしく描いているのであって、現実に存在する深刻な社会問題を描いた作品です。貧富の格差、学校に行けない子供たち、理不尽な扱いを受けてもただ黙って耐えるしかない社会…。最後は陳昇たちの優しさを見た気がしました。

 

もう1本、オフィシャルではないので候補からは外しましたが、特別賞をあげたいMVがあります。映像集団・MixCodeが制作した閻韋伶×世外桃源の『Truth』です。

『Truth』はクリエイターズサイトサイト・StreetVoice制作によるコンピレーションアルバム『StreetVoice 夏季選輯』(2012年)の収録曲で、台湾のラジオなどでもほとんど耳にすることはないと思います。このMVもStreetVoiceのウェブサイトで見るしかありませんが、日本でも大きな社会問題となっている集団での『イジメ』を扱ったストーリーと切なくなってしまうくらい美しいメロディが相まって胸が締めつけられます。祈るように見入ってしまうMVです。曲にもMVにも注目してもらいたくて、ここで取り上げてみました。