おはようございます。
人知れずコッソリ不定期放送中、フェイクラジオ・sasanoji電台です。
2018年を振り返るsasanoji radio Awards 2018、なんとか辿り着きました最後の部門、今回は【Album/EP of the Year】編をお送りいたします。ここでは他の部門に分類出来なかったコンセプト作品や個人的に思い入れのある作品などを中心に、ジャケットの装丁や全体の統一感なども考慮しながら選んでいます。趣味に走りすぎて、毎年ちょっと地味なラインナップになってしまうのですけどね^^;。今回はどうでしょうか。
僕が選んだ2018年度【Album/EP of the Year】部門の候補は、この6作品です。
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忘年計畫Timeless Project『忘年計畫』（3月，種子音樂）
これは聴く人の年齢、好みによって評価が大きく変わってくる作品かもしれません。国籍の異なる有名音楽人3名、台湾のトップクリエイター・葉樹賢（作詞）[*1]、大陸の新鋭プロデューサー・王樂達（作曲）[*2]、シンガポールのベテラン歌手・陳彼得（主唱）[*3]によるプロジェクト・忘年計畫（ワンニエンジーファ）、『時間』をテーマとしたコンセプトアルバムです。プロデュースは王樂達と葉樹賢。ゲストで原住民族出身の実力派女性歌手・曾淑勤、現在は北京を拠点に活動をしているイタリア出身のピアニスト・Moreno Donadelも参加しています。目新しいことはとくにやっていません。オーソドックス。とにかくオーソドックスを貫いています。僕はこの安定感のあるノスタルジックな雰囲気が大好きなのですけど、若い人には少々古めかしく感じられるかもしれませんね。カッチリとした作りのオーバージャケット、ズッシリと重量感のあるブックレット、モノクロを基調としたシックなデザインも作品の質を高めています[*4]。穏やかな心で聴ける大人のボーカルアルバムです。Outro的な11曲目『 If you …』、長い無音部分の後に『嘿！天黑』の別バージョンが隠されています。
落日飛車Sunset Rollercoaster『Cassa Nova 半熟王子』（3月，自主練習工作室）
昨年ついに日本でもブレイクした…どころか、そのまま世界にすっ飛んで行ってしまった落日飛車の2ndアルバム。愛に生きる男・半熟王子（Cassa Nova）の成長を描いたレトロソウル、アーバンサイケポップの傑作です。この作品でクレジットされている主要メンバーは曾國宏（Vo，Gt）、羅尊龍（Dr）、陳弘禮（Ba）、王少軒（Key）、張浩嘉（Perc）、黃浩庭（Sax）の6名。3曲目『Cool of Lullaby』のイントロ部分で聞こえるフランス語の独白は、ヒップホップ団体・水源Xueiyuanのメンバー・雷擎によるサン＝テグジュペリ『星の王子さま』の一節。7曲目『Summum Bonum』でサックスを吹いているのはやっぱりこの人、謝明諺でした。Abbey Road Studios（英）のエンジニア・Alex Whartonがマスタリングを手掛けているのも大きな話題の1つでしょう。王擎樺のラテン風のポップなイラストも目を引きますねー。本作はBIG ROMANTIC RECORDSから日本盤もリリースされましたが、直後に帯と歌詞カードのタイトルが誤って『半熟玉子』と印刷されていたミスが発覚するという、未来永劫ファンの間で語りぐさになりそうな面白いエピソードも生まれています^^。
Vast & Hazy『求救訊號』（6月，添翼創越工作室）
2011年結成。元々はバンドスタイルでしたが、2014年に一旦活動を停止。2年後の2016年に女性ボーカル・顏靜萱と男性ギタリスト・林易祺の2人組ユニットとして再始動しました。翌2017年に2nd EP『次等秘密』をリリース。本作が初アルバムとなります。若手2人組ユニットの独立系作品でありながら、そのスケールはもう巨大プロジェクト並み。トップギタリスト・韓立康（Gt）、Hello Nicoの李詠恩（Gt）、阿爆＆Brandyの田曉梅（Chor）、粉紅噪音樂團の潘維瀚（Dr，Tamb）、神棍樂團の吳岳霖（Dr）、椰子樂團の賴聖文（Dr）、甜梅號の林昀駿（Syn）、隱分子の劉涵（Vc）、十九兩の張瀚中（Acc）、佛跳牆の江尚謙（Dr）、SENSATIONのDanny Deysher（Tp）、サックス奏者・謝明諺（Sax）、SSW・黃玠瑋（Chor）、作詞協力・何欣穗ほか、書き切れないほど多くのミュージシャンやエンジニア、スタッフが参加しています。多様なスタイルの楽曲に多様な演奏者の組み合わせ、その1つ1つに見事に呼応する大咖の個性的なボーカル。本当に凄い、若さと才能と可能性に溢れたユニット、作品です。
Tizzy Bac『知人』（10月，相信音樂）
貝斯手・許哲毓の遺作です。Tizzy Bacは1999年に陳惠婷（主唱兼鍵盤手）、許哲毓（貝斯手）、鄭凱同（鼓手）の3名によって結成され、2003年、離団した凱同に代わって林前源が加入、僕らのよく知るTizzy Bacとなりました。2003年のデビュー作『什麼事都叫我分心』から2013年の『易碎物』まで6枚のアルバムをリリース[*5]。高い評価を得ていましたが、2013年以降メンバー間の不和でバンドの維持が困難となり、惠婷は単身でメジャーレーベル・索尼音樂Sony Musicと契約、ソロ活動を開始しました[*6]。2017年11月に突然Tizzy Bacの新作MV『暴風』が公開されたときは、ついに活動再開かと驚喜しましたが、どうやら2016年3月頃から関係の修復を図っていたようですね。哲毓の身体に癌が見つかったのもちょうどその頃で、惠婷はソロとバンド両方の楽曲創作、哲毓は病と戦いながらTizzy Bacの再生を目指しました。2017年12月、第2弾MV『The River』の公開直前に自分が癌であることを公にした哲毓は、その1ヶ月後の2018年1月23日に帰らぬ人となりました。哲毓の死後、2月10日に公開されたMV『沙漏』は涙なしには見れません。彼の最後の仕事となったこれらの曲が形になって本当に良かった。哲毓は病を押して全12曲のうち8曲を弾いています[*7]。ブックレット表紙の3人の写真はいつ撮ったのでしょう、哲毓が真ん中で椅子に深く腰掛けているのですけど、本当にやつれてしまっていて、みんなもう現実を覚悟しているという表情で、辛いですね…。Tizzy Bacは今後、惠婷と前源の2人で活動を続けていくそうです。哲毓はもういませんが、彼のソウルはこれからも2人と共にある。そう感じさせてくれるアルバムです。今回の金曲獎、Tizzy Bacはこの作品で最佳樂團獎にノミネートされています。
孫盛希Shi Shi『希遊記』（10月，滾石）
2014年デビューの新進女性シンガーソングライター、希希Shi Shiこと孫盛希の4thアルバムです。前作、3rdアルバム『女．人 Woman』のリリースが2018年7月でしたから、僅か4ヶ月足らずでの新作ということになりますね。英語タイトルは『SHI's Journey』。コンセプトは『實驗專輯』です。近年、功成り名を遂げた大物アーティストたちが突然それまでの雰囲気とは異なる実験的な作品を出してきて、置いてけぼりを食らったような気持ちになってしまったことが何度かあったのですけど、それとはちょっと違って、希希は魏如萱、ØZI、HUSHら様々なタイプのアーティストとの共演[*8]、様々なスタイルの音楽との融合[*9]を試みながら、自身の未来の可能性について探求しています。そのため本作では彼女が作曲をした、または作曲に携わった楽曲が2nd、3rdよりも少なくなっているのですけど、それが希希のスキルアップしたボーカルをより強く印象付けることにもつながっています。この早めのタイミングでのチャレンジ、僕は大正解だと思います。植物研究をイメージさせるデザイン、曲それぞれに属名を設定するなど『実験』に因んだ凝った演出も面白いですね。さすがに試験管立てを模した巨大なパッケージには、ちょっと閉口しましたが^^;。
白安Ann『1990s』（12月，相信音樂）
メーカーインフォメーションによると前作『接下來是什麼』から1561日ぶりとのこと。個性派女性シンガーソングライター・白安（バイアン）の3rdアルバムです。白安は1991年生まれ。現在27歳。小学生の頃からギターやキーボードに親しみ、中学に上がる頃にはもう創作活動を始めていました。クリエイターズサイト・StreetVoiceに加入したのは16歳のとき。そこで発表した楽曲が好評を博し、若干17歳にして巨大音楽イベント・簡單生活節Simple Lifeに出演。名プロデューサー・李宗盛に認められ、4年後の2012年12月に1stアルバム『麥田捕手』（製作人：李劍青）でCDデビューしました。白安はこの作品で第18屆新加坡（シンガポール）金曲獎最佳新人獎を受賞。本家台湾の第24屆金曲獎でも最佳新人獎の候補に選ばれています。一躍人気者となった彼女ですが、本来はとても繊細な神経の持ち主で、人前に立つこともあまり得意ではありませんでした。寄せられる期待の大きさに体調を崩してしまうこともあったようです。2014年の前作、2ndアルバム『接下來是什麼』（製作人：李宗盛）のタイトルにはそのときの気持ち、つまり『次はどんな作品を出すの？』って聞かないで、という意味も込められているのですけど、4年3ヶ月ぶりとなる本作『1990s』では、自分から積極的に外の世界へ羽ばたいて行こうとしている成長した姿が窺えます。プロデュースも彼女自身が行ないました。今回の金曲獎では全くかすりもしていなくて気落ちしているかもしれませんが、これからも彼女には彼女らしく、自分のペースで歌っていってほしいと思っています。
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以上がsasanoji radio Awards 2018【Album/EP of the Year】部門の候補6作品でした。
ここには【Best Group】部門のところで触れたように、最終段階直前まで秋伯樂Chill Brosの『快樂胯下』が入っていたのですけど、僕も金曲獎と同じでここまで白安を入れることが出来ていなかったんですね。でも、彼女のこのアルバムでの頑張りはやはり評価しておきたくて。ここに突っ込んでおきました^^。
これでsasanoji radio Awards 2018の全候補が出揃いました。結果発表は金曲獎前を予定していたのですが、間に合いませんでした。ゴメンナサイ^^;。金曲獎後にもう一度Twitterのほうで投票を募って、最終結果を発表しようと思っています。
さて、いよいよ今夜に迫りました第30屆金曲獎、最佳國語專輯獎の候補はこのようになっております。
【最佳國語專輯獎】
謝震廷『愛麗絲 Where Are We Going?』
Leo王『無病呻吟有情抒情』
艾怡良『垂直活著，水平留戀著。』
孫盛希『希遊記』
蔡依林『Ugly Beauty』
ØZI『ØZI: The Album』
林憶蓮『０』
バンドは無し。ソロアーティストのみです。全員、最佳國語歌手獎と重複していますね。謝震廷は年度專輯獎を含めこれで4部門にノミネート。Leo王は3部門、艾怡良と孫盛希は5部門、蔡依林と林憶蓮は最多の7部門、ØZIは新人ながら6部門にノミネートされています。
謝震廷は僕も最後まで入れるか迷いました。この一分の隙きも許さないピーンと張り詰めた空気感、どれほど彼が神経を擦り減らしてこの作品を生み出したのかがピリピリと伝わってきます。コチラも身構えてしまうほどの完成度。僕はその重さに負けてしまったのですね。孫盛希『希遊記』は同感。艾怡良、蔡依林、林憶蓮は今回の金曲獎はこうなるだろうなという感じでしょうか。Leo王とØZIも…。
金曲獎予想、本命は蔡依林。蔡依林は第26屆（2015年）で獲っているのですけどね。対抗は孫盛希、単穴は謝震廷でどうでしょう。謝震廷は昨年お母さんが受けた癌の手術で多額の治療費が必要とのことで、僕は単穴・謝震廷を推します^^。
追記：
第30屆金曲獎【最佳國語專輯獎】は、対抗・孫盛希『希遊記』が受賞しました～！おめでとう～！！
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たぶんこれが最後のS電賞。
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脚注
*1:Oatall Yeh。1994年にレコード会社に入社。宣伝、企画、製作、マネジメント等に携わり、近年はクリエイターとしても活躍している。このプロジェクトの発起人。
*2:Dada Wang。中国安徽省出身。高校時代に100曲以上も作曲しネット上で発表。中國傳媒大學音樂與錄音學院を卒業後は主にプロデューサー、クリエイターとして活躍。昨年は大物女性歌手・黃綺珊のアルバム『時光』で製作助手を務めている。
*3:Peter Tan。台湾の歌手・陳彼得Peter Chenとは別人。12年以上のボーカル指導経験と20年以上の歌のキャリアを持つベテラン。孫燕姿、林俊傑、向洋ほか国内外の多数の歌手に歌唱指導していることでも知られる。
*4:ジャケットデザイン、写真撮影は葉樹賢が担当している。
*5:2009年の4thアルバム『如果看見地獄，我就不怕魔鬼』では許哲珮らと共に第18屆金曲獎最佳專輯製作人獎を受賞した。
*6:2枚のアルバムをリリースした後、2016年に再びTizzy Bac時代と同じ独立系メジャー・亞神音樂に戻っている。
*7:ほか3曲はベースなし、あとの1曲は落日飛車の陳弘禮が貝斯手を務めている。
*8:李欣芸、陳君豪、李守信、許郁瑛、鍾濰宇、林泓毅、葛大為、嚴云農、米奇林、蔡佳穎、楊凱婷、Musa、保卜など。
