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sasanoji radio Awards 2018 【Song of the Year】編

2018

 

こんばんは。
人知れずコッソリ不定期放送中、フェイクラジオ・sasanoji電台です。

 

2018年を振り返るsasanoji radio Awards 2018、今夜は【Song of the Year】編をお送りいたします。僕は中国語がわからないので、基本的には歌詞よりもボーカル、メロディや編曲など全体の雰囲気重視です。ヒットチャートもほとんど気にしていません。各アルバムの中からビビッときた曲のみをピックアップして絞り込んでいます。

 

僕が選んだ2018年度【Song of the Year】部門の候補は、この6作品です!

 

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盧凱彤Ellen Loo『荒原』(作詞:林夕/作曲:盧凱彤)

Ellen-loo2018mar 

2018年3月に環球旗下の新レーベル・brave nusicからデジタル配信された盧凱彤(ルーカイトン)の広東語シングルです。作詞は林夕、作曲は盧凱彤。混沌、矛盾、孤独に満ちた荒れ野で自身の安寧を維持し続けることの難しさを、息苦しいまでの筆致で描いています。盧凱彤のことは本当にショックでした。胸の辺りをごっそりと持って行かれたような喪失感…。この後、彼女が参加した陳奕迅のアルバム『L.O.V.E.』がリリースされていますが、盧凱彤個人の作品としては、このシングルが最後になるのだろうと思っていました。ところが今年3月、突然発表されたのですよ、正真正銘の遺作『』(粵語)と『光之外』(國語)が(同曲異詞)。嬉しかったですねー。『雀斑』を彷彿とさせる盧凱彤らしいメロウな曲調に思わず目頭を熱くしてしまいましたが、テーマは『荒原』と同根のようです。荒れ野の先に彼女が見た光、それは僕らが見ているものとは違う光だったのでしょうか。確かめる術はもうありません。ズッシリと重さの残る1曲です。

 

Vast & Hazy『求救訊號』(作詞:顏靜萱/作曲:林易祺)

Vast_hazy2018 

女性ボーカル・顏靜萱(咖咖,大咖)と男性ギタリスト・林易祺による男女2人組ユニット、Vast & Hazyの1stアルバム『求救訊號』のOPナンバーです。作詞は大咖、作曲は易祺。この曲のテーマはタイトルのとおり求救訊號、即ち『SOS』です。人は誰でも心に傷を負いながら成長します。時が経つにつれ見えなくなる傷もあれば、トラウマとなって残る傷もある。心の奥底に覆い隠していたSOSが、ある日突然、止め処も無い感情となって吹き出すことも…。大咖は元来、そういった他人の悲しみや苦しみ、痛み、不安、恐怖といった感情に同調しやすい、感受性が敏感な人なのだそうです。この歌に励ましの言葉はありません。ただ寄り添い、共感するのみです。彼女自身もまた、救いを求めている人…なのかもしれません。2分57秒(MVでは3分30秒)に一拍あって、静から動へと移った瞬間に聞こえてくる『擁抱我 告訴我 我沒有錯』の歌声、胸が締めつけられます。リアルな歌だと思います。

 

HUSH『怎麼開始的』(作詞:HUSH/作曲:HUSH)

Hush2018 

多くの有名女性歌手に楽曲(主に作詞)を提供[*1]していることから、最近では『天后御用創作才子』とも呼ばれている個性派男性シンガーソングライター・HUSHの2ndアルバム、『換句話說』のOPナンバーです。作詞作曲、プロデュースはHUSH本人。哲学科出身だけあって、歌詞が難解ですね~。ゲストプレイヤーとしてジャズサックス奏者の謝明諺が参加しています。台湾歌手のCDを聴いていて『このサックスいいな~』と思ったときは大体彼ですね^^。ちなみにMVの監督は、映画『デイアンドナイト』の藤井道人です。今回の金曲獎、残念ながらHUSHは主要部門でのノミネートは無し、関連部門の最佳裝幀設計獎(方序中[*2],吳建龍)1件のみでした。中華音樂人交流協會[*3]による『2018年度十大單曲』には『對等關係』が入っていますね。この曲も好みだったんですけど、僕が『怎麼開始的』のほうを選んだ理由は単純で、メロディとボーカル、謝明諺のサックスが只々カッコ良かったからです^^。

 

孫盛希Shi Shi『人樣』(作詞:HUSH/作曲:孫盛希,陳君豪,林泓毅,許郁瑛,鍾濰宇)

Shi_shi2018oct 

實驗專輯『希遊記』の4曲目に収録。この曲のアルバム内での分類設定は、屬名:虐待症候群搖滾、學名:Love Me Like A Liar。作詞は天后御用創作才子・HUSHくん^^。作曲と編曲は、孫盛希、陳君豪(Gt,Syn)、林泓毅(Ba)、許郁瑛(Pf)、鍾濰宇による共同で、今回の金曲獎では最佳編曲人獎のほうにノミネートされています。ほか、参加ミュージシャンのクレジットには爵士鼓・河村智康、混音工程師・渡辺省二郎の名前も。日台の垣根を越えて作品が生み出される、そんな時代になったのですね。鍾濰宇と共にプロデュースを務めた陳君豪によると、この曲は僅か30分のジャムセッションで完成したとのこと。凄いのが孫盛希のボーカルで、これ1テイク目のものだそうです。後で別のテイクも録ってみたけど、一発目を超えられなかったと。スタジオのゾーン感が伝わってくるようなエピソードですよね。ジャズ的なアプローチをした、とにかく鳥肌立ちっ放しの凄まじいナンバーです。

 

謝和弦R-chord『31歲菜鳥新人』(作詞:謝和弦/作曲:謝和弦,周菲比)

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5thアルバム『像水一樣』のラストナンバーです。最初に書いたとおり僕は中国語がわかりませんので歌詞に惹かれることは滅多にないのですけど、この曲は珍しく歌詞メインで選びました。僕が謝和弦を初めてブログで取り上げたのは2012年。第23屆金曲獎で主要関連4部門にノミネート[*4]されていて、それで彼のことをちょっと調べて書いたんですね。あと、2015年の3rdアルバムリリース時にも書こうと準備していたんですけども、まとめきれなくて結局それはお蔵入りとなってしまいました。翌年のS電賞2015で候補に選んだときに一部そこから流用しています。そんなこともあって、彼のこれまでの経歴についてはホンの少しですけど馴染みがありました。で、この歌詞を見たとき、わかったんですね、彼が何を言っているのかが。もちろんハッキリとわかったわけではないのですけど、もうドバァ~ッと涙が出て来てしまいました。謝和弦、良かったね、頑張ったね、そんな気持ちの涙だったと思います。

 

謝震廷Eli Hsieh『愛麗絲 1993』(作詞:謝震廷/作曲:謝震廷)

Eli_hsieh2018 

2016第27屆金曲獎で最佳新人獎を受賞した若手男性シンガーソングライター・謝震廷の2ndアルバム、『愛麗絲 Where Are We Going?』[*5]に収録。作詞作曲は共に謝震廷。後ろに付いている『1993』はおそらく彼の誕生年でしょう。弾き語りっぽくアコギのみで静かに始まるオープニングから、メロディが進むに連れ、電吉他、電貝斯、鼓、弦樂、電鋼琴がどんどん重なってきて、怒涛のクライマックスへと雪崩れ込む、そして全てが虚空に放たれたように訪れる静寂、カタルシス…。感嘆の吐息が洩れてしまうほど見事な構成です。一方歌詞のほうは、その美しいメロディとは対象的にとても重く、苦い…。謝震廷は6年以上も前から兵役を免除されるほどの重い鬱病に苦しんでいました。毎朝目が覚めると『死』の考えが頭をよぎっていたそうです。新作に打ち込むことは死神との戦いでもありました。このアルバムは確かに彼を救ったのです。現在交際中の女性歌手・張瑀とは30歳になったら(収入が増えたら)入籍するとのことですが、前倒ししてもよいのでは。早く結婚して安心させてほしい…。

 

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以上がsasanoji radio Awards 2018【Song of the Year】部門の候補6作品でした。
今回はかなり早い時期に決まりました、割とすんなりと。それくらいこの6曲の印象は強かったです。結構重いテーマの作品が並んでしまいましたが、これはこれで悪くないチョイスじゃないかな、と陰でニンマリしています^^。

 

第30屆金曲獎の候補は、このようになっています。

【年度歌曲獎】
閃靈『烏牛欄大護法』
陳奕迅『海裡睡人』
蔡依林『玫瑰少年』
林憶蓮『沙文』
S.H.E『 十七』
李宗盛『新寫的舊歌』
茄子蛋『浪流連』

 

ここはいつも基準がよくわからない部門ですねー。ヒットチャート等もそれほど重要視していないようですし。歌詞の比重のほうが大きいのでしょうか、『烏牛欄大護法』と『新寫的舊歌』は最佳作詞人獎でも選ばれていますね。最佳作曲人獎、最佳編曲人獎と重複している候補はいません。正直、あまりピンとこないラインナップ…かな。僕ら一般人は、先日行なわれた『2019 hito流行音樂獎』や中華音樂人交流協會の選ぶ『十大優良單曲』ほうがシックリ来る部分が多いのではないでしょうか。

金曲獎予想は、李宗盛『新寫的舊歌』が本命。この曲が一番歌詞とメロディのバランスが良かったと思います。とくに歌詞がね~、良いのですよ~。Google翻訳ですけどね^^;、ある程度年齢が行った人だと、この歌詞は必ず沁みます。対抗はS.H.E『 十七』、単穴は茄子蛋『浪流連』。『浪流連』はちょっと『新寫的舊歌』と雰囲気が被ってしまうんですけどね。この3曲であれば、まあ納得ですかね。ということで、僕は本命狙い、李宗盛『新寫的舊歌』を推します。

 

追記:
第30屆金曲獎【年度歌曲獎】は、蔡依林『玫瑰少年』が受賞しました~!おめでとう~!!予想、外しました~^^;。

 

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たぶんこれが最後のS電賞。

 

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脚注

*1:孫燕姿、徐佳瑩、丁噹、A-Lin、劉若英、家家、張惠妹ら多数に提供。2015第26屆金曲獎では彼が作詞をした徐佳瑩の『尋人啟事』で最佳作詞人獎を受賞している。

*2:『異常現象』(hush!樂團)や『回家的路』(暗黑白領階級)、『偏執面』(張惠妹)、『東南美』(Matzka)等で金曲奬の最佳專輯裝幀設計獎にノミネートされているデザイナー。今作のジャケットは本来真っ白で、そこへ付属のブラックライトを当てると写真が見える特殊印刷が施されている。中の歌詞も同様。

*3:前身は90年代初めに設立された『音樂人交流協會』。あるアーティスト養成キャンプに参加していた音楽関係者たちが、カナダ大学のドラマセラピスト・Trish Grange(同姓同名でなければ女優、70年代にシェークスピアのドラマに出演している)の講義を受けて設立した団体で、当時の団員は60名余。1996年に正式な非営利公益団体として『中華音樂人交流協會』が誕生した。現在の会員数は約200名。音楽に従事する関係者らで構成され、音楽を中心とした公益イベント活動を行なっている。1997年、『年度十大優良專輯』と『十大優良單曲』の選出を開始。2003年には大陸・台湾・香港共催の音楽賞『華語流行樂傳媒大獎』に台湾地区審議団として参加、両岸音楽人の交流を促進し、2005年からは四大音楽団体『國際唱片業交流基金會(IFPI Taiwan)』、『中華音樂著作權仲介協會(MUST)』、『香港作曲家及作詞家協會(CASH)』、『中國音樂家協會(CMP)』と共同で『全球華人音樂創作大賽』を開催している。

*4:最佳年度歌曲獎『於是長大了以後』、最佳作曲人獎『於是長大了以後』(謝和弦)、 最佳單曲製作人獎『 於是長大了以後』(何官錠,謝和弦)、 最佳音樂錄影帶獎『寂寞瘋了』(導演:比爾賈)。受賞は最佳音樂錄影帶獎のみ。

*5:本作は彼の愛読書であるDaniel Keyesの『Flowers for Algernon』(邦題:アルジャーノンに花束を)に着想を得たコンセプトアルバム。前作のタイトル『查理(チャーリー)』はその主人公の名前、『愛麗絲(アリス)』はもちろん彼の理解者として登場する女性教師の名前。