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朱婧の新作、ジャケ写は怪しいけど… 中身は安心です。

朱婧June『以夢為馬』(2014)

Zhujing2014

 

今回は9月12日に2ndアルバム『以夢為馬』(環球音樂)をリリースした中国大陸雲南省思茅市(現・普洱市)出身の女性シンガーソングライター、朱婧(ジュージン)をピックアップします。

本作『以夢為馬』は、2008年リリースの同名1stアルバムから6年5ヶ月ぶりとなる新作であり、また、初めて彼女自身が全曲の作詞作曲を手掛けた完全オリジナルのアルバムでもあります。

 

9曲目に収録、朱婧がお祖母ちゃんに贈った曲『瑛達遖』。曲名は亡くなったお祖父ちゃんの愛称の音訳だそうです。MVの監督は劉明群。

 

朱婧は1988年4月18日生まれ、雲南省に居住する少数民族の中では4番目に人口が多い傣タイ族の出身。絹のように滑らかで清廉な美声が魅力の若手女性シンガーです。15歳の時に出場した歌唱コンテストで審査員を務めていた音楽評論家・彭洪武に認められ、当時女性ボーカル作品を計画中だった大陸のカリスマロックアーティスト・左小祖咒Zuoxiao Zuzhouに彼女を推薦。2004年、左小祖咒が提供した楽曲『香格里拉』に雲南民謡『小河淌水』、アイルランド歌の中文カバー『美麗駿馬』を加えた3曲入りEP『朱婧』でCDデビューしました。2008年4月には、その3曲と自作曲『螞蟻』を収録した1stアルバム『朱婧June』を大陸に先駆けて台湾でリリース。台湾デビューを飾っています。[*1]

 

1stアルバム『朱婧June』に収録、『小河淌水』と『為什麼』。

『小河淌水』は、100年以上も前から歌い継がれている雲南民謡で、別名『東方小夜曲』とも呼ばれる世界的名曲です。1947年に雲南出身の編集者・尹宜公によって歌詞が整えられ、以来数多くの有名歌手がカバーしてきました。そのほとんどは中国大陸の大きさや奥深さを感じさせる朗々と歌い上げるスタイルですが、トリップホップ風にアレンジされた朱婧の『小河淌水』はとても軽やかで、まるで少女たちが茶畑で葉を摘みながら歌い語らっているような可愛らしい雰囲気となっています。

 

1stアルバムリリース後、朱婧はしばらく休養をとって世界を旅して回りました。各地の音楽フェスティバルに参加したり、有名音楽家を訪ねたり、どうやら日本にも来ていたようですね。2011年、充電を完了した朱婧は活動を再開。陳珊妮Sandee Chanがプロデュースを務めたコンピレーションアルバム『就是現在』で自作曲『我想見你』を発表し、また歌手活動以外でも、音楽番組『音樂風云榜』の司会に抜擢されて一回り成長した姿を見せています。

 

本作2曲目収録の『她』と、4曲目収録の『孩子』。

この2曲は2013年11月25日にEP『』として先行リリースされました。休養前にあった幼さは消えて、楽曲、容姿ともにグッと大人っぽくなっていますね。編曲、録音、ミキシング等の仕上げはビッグアーティストのアルバムを数多生み出したことで知られる米ロサンゼルスの伝説的スタジオ・The Villageで、MVの撮影は韓国・済州島で行なっています(今作の仕上げもThe Villageで行なっている)。

 

ラストナンバー、『小馬』。MVの監督は劉明群。

 

メーカーインフォメーションによると本作に収録されている10曲は、台湾の『草莓族』へ贈る応援歌とのこと。『草莓族』とは台湾の団塊の世代と言われる民国暦70年代(1981年~1990年)生まれの若者たちのことで、別名『七年級生』とも呼ばれています。この世代はプレッシャーやストレスに弱く、ちょっとした圧力ですぐに潰れてしまうことから『草莓族』と命名されました[*2]。朱婧自身も民国暦で言えば77年(1988年)生まれの『草莓族』、『七年級生』の世代に当たるわけですが、彼女の場合は『吾十有五にして学に志す。三十にして立つ』と論語にあるとおり15歳で音楽の道を志し、そして今、30歳手前にして自身の位置を確立しつつあります。アルバムの最後に収められている曲『小馬』は、まさに彼らへの、いえ、すべての世代への応援歌に聞こえます。

 

本作リリース直前の8月28日、朱婧は少数民族歌唱コンテスト番組『爭奇鬥艷』に傣族代表として出場し見事優勝。『傣族歌后』の美称を得ました。エロいジャケットに手を伸ばすのをためらっている方、いらっしゃるかもしれませんが、MVを見てビビッときたならば買っても大丈夫(たぶん)。きっと癒やされますよ^^。

 

コチラはオマケ。中国の大人気オンラインゲームを3DCGアニメ化した『梦幻西游2』(2013年)の主題歌『為愛追尋』。朱婧が歌っています。

 

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脚注

*1:大陸では同年12月に『天空的邊際』のタイトルでリリースされ、いくつもの新人賞を獲得した。

*2:命名者は自己啓発本を多数著している明治大学卒の女性政治経済学者・翁靜玉。