李榮浩Ronghao Li『模特』(2013)
2013年9月16日リリース。先日の第25屆金曲獎で最佳國語專輯獎、最佳國語男歌手獎など5部門にノミネートされ、見事最佳新人獎を受賞した中国安徽省出身の若手実力派男性シンガーソングライター、李榮浩(リーロンハオ)の1stアルバムです。
オープニングナンバー『李白』。この1曲が僕に購入ボタンを押させた。し、渋い…。
李榮浩はこれまで有名歌手への楽曲提供やプロデュース、専属ギタリストなど裏方での活動を中心としていました。本作『模特』(福茂唱片)は、彼がシンガーソングライターとして初めてリリースした個人作品集です。収録されている10曲は全て彼自身が作曲をしたものですが、28歳(当時)という若さにもかかわらずひじょうに渋い、80年代に流行ったAORやポップスを想起させる、落ち着いた雰囲気のアルバムとなっています(悪く言えば、若々しさに欠ける^^;)。
2曲目に収録、タイトルナンバー『模特』。
昨年度、コレは良い買い物をしたと思わせてくれた作品がいくつかあります。例えば、男女2人組ユニット・光引擎の『沿途風景』。このブログ中でもリリース直前に取り上げたり、2013年上半期最大のメッケもの、とTwitterに書き込んだりしていましたが、今回の金曲獎で最佳演唱組合獎を受賞した時は本当に嬉しかった。それから上海出身の新人女性シンガーソングライター・阿肆A Siの『預謀邂逅』。僅かなメーカーインフォメーション(中国語の)と非公式で流れていたYouTube音源のみを頼りに買ってみたのですが、これも自分が想像していた以上に自分好みの楽曲が揃っていて大満足、個人的に大当たりのアルバムでした。この李榮浩の『模特』も、そんな作品の中の1つです。
李榮浩は1985年7月11日生まれの29歳。10歳の頃から独学でギターを弾き始め、後にプロのベーシスト・尹富源に師事。2004年、彼の楽曲『煩』が内地の有名音楽雑誌『吉他平方GuitarSquare』に注目され、同年、江蘇省の音楽コンテストで優勝するなど頭角を現し始めました。翌2005年、プロのギタリストとして本格的に活動を開始した李榮浩は、どのような経緯かアジア最大のメジャーレーベル・艾迴avex(現・愛貝克思)と契約。2007年、蘇見信(信樂團)のソロ1stアルバム『我就是我』(艾迴唱片)に楽曲提供、プロデュースで参加したのを皮切りに、趙薇、陳坤、楊丞琳、王心凌、張信哲、李宇春、黃雅莉、范逸臣ほか、大陸・台湾を問わず数多くのメジャーアーティストの作品にクリエイターとして携わってきました。中でも大陸の人気俳優・陳坤Aloys Chenとは2009年の3rdアルバム『謎ME』に参加して以来、互いに信頼を寄せている朋友という間柄。陳坤のライブではギタリストを務め、また彼が主催するチャリティ活動『行走的力量』の主題歌制作、音楽監督も担当しています。
上から、李榮浩が作曲を担当した信『我恨妳』(2007年)、A-Lin『不是不滿足』(2011年)、薛之謙『醜八怪』(2013年)。
李榮浩はこういった渋い雰囲気の曲だけでなく、陸瑤や張暄祺、王心凌ら女性アイドル向けのポップな曲も書いています。でも僕にはちょっと、彼が無理をしているように感じられました^^;。上海出身の男性シンガーソングライター・薛之謙は惚れ惚れするくらい上手に歌いこなしていますが、これなどを聴くと、やはり彼の本領は男臭いブルースロックやソウルにあるのかな…という気がします。ちなみに、この『醜八怪』が収録されている薛之謙のアルバム『意外』は残念ながら既に廃盤扱いとなっているので、店頭等で見かけたらお早めに。
コチラは2010年に大陸でリリースした、実質彼の1stシングルとなる『小黃』。北京小動物保護協会のキャンペーンソング。
6曲目に収録、陳坤とのデュエットナンバー『演員和歌手』。陳坤は多忙にもかかわらず、朋友のためスケジュールの合間を縫ってレコーディングに駆けつけてくれたそうです。
3曲目、『兩個人』。李榮浩の年齢に似合わない枯れたスタイルがどこから来たのか、これを聴くとよくわかります。
洋楽に詳しい方なら一聴してピンと来たでしょうか。この曲、アメリカの男性シンガーソングライター・John Mayerの『St. Patrick's Day』(2001年)に激似です。4曲目収録の『太坦白』も、やはりJohn Mayerの『Vultures』(2006年)と雰囲気がソックリです。実は金曲獎ノミネート後、これが元でチョットした騒ぎが起きていました。パクリ疑惑です。問われた李榮浩はインタビューの中で、John Mayerは自分が大好きなアーティストであると語っています。いつも彼の歌を歌い、彼の曲を弾いていた、だからおそらく彼の影響も受けているだろう、と。ある有名音楽家はこれに懸念を示し、また一部からはノミネート自体を疑問視する声も出ていたようです。しかし、金曲獎の評議委員たちは彼から機会を奪うことはしませんでした。若い才能を認め、大切に考えたのでしょう。
李榮浩が尊敬するJohn Mayerも、早世したアメリカのブルースギタリスト・Stevie Ray Vaughanの影響を受けていたといいます。そこからどう自分のスタイルを生み出し発展させてゆくか。今回はその宿題も込めた、新人賞受賞だったのではないか…。僕はなんとなく、そんな気がしています。とにかく李榮浩、新人賞おめでとう!
2014年3月24日、李榮浩は公式1st EP『作曲家』(簡單快樂文化)を大陸でリリースしましたが、現在のところ日本での入手は難しそうです。
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