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楊宗緯、3rdアルバムは彩り豊か。

楊宗緯Aska Yang『初.愛』(2013)

Aska-yang2013

 

3月29日リリース。前作『原色』から1年7ヵ月ぶりとなる実力派男性シンガー・楊宗緯(ヤンゾンウェイ)の新作、待望の3rdアルバムです。

 

2曲目に収録、韋禮安作曲による『忘了我』。

 

楊宗緯は、今年の金曲獎で最佳國語男歌手に輝いた蕭敬騰Jam Hsiaoや惜しくも受賞を逃した林宥嘉Yoga Linらと同じくオーディション番組『超級星光大道』第1シーズン(2007年)の出身、2008年にCDデビューした同期です。
不運続きだった過去の話は、もう語らずともよいでしょう。2011年8月、3年ぶりにアルバムをリリースし復活を果たしました。その2ndアルバム『原色』については以前、モノクロ写真を集めたギャラリーに例えて書いたことがあります。シンプルだけど楽曲個々が発するエネルギーは力強く、メッセージで溢れている…と。将来を嘱望されながら立つべき場所を奪われた逸材・楊宗緯のために、百万製作人・李宗盛が16年ぶりに棟梁となって作り上げた台湾アダルトコンテンポラリーの傑作です。

あれから1年7ヵ月。リリースされた新作『初.愛』は、李宗盛、馬毓芬、林暐哲、朱敬然ら4名による共同プロデュース作品です。李宗盛が担当したのは全10曲のうち3曲。彼に由来する全体の統一感や渋いR&B色は薄くなりましたが、代わりに彩り豊かで暖かい雰囲気のバラードアルバムに仕上がっています。

 

ラスト10曲目に収録、昨年12月24日に先行公開された新曲『這一路走來』(歌詞版)。プロデュースは馬毓芬。

 

クリエイター陣も多彩です。今秋、新作のリリースが予定されている人気バンド・蘇打綠Sodagreenの吳青峰、若手実力派シンガーソングライター・韋禮安William Wei、天才アーティスト・嚴爵Yen-j、数多の有名歌手に楽曲提供しているマレーシア出身のベテランシンガーソングライター・易桀齊Yi Jet Qiと伍家輝Jiahui Wuらが参集。和風ポップスの香り漂う5曲目『初愛』は、来月、日本での公開が予定されている台湾映画『那些年,我們一起追的女孩』(邦題:あの頃、君を追いかけた)の主題歌『那些年』の作曲者として一躍知られる存在となった、台湾在住の日本人音楽家・木村充利が手掛けました。楊宗緯自身も1曲目『其實都沒有』、4曲目『低迴』、6曲目『沒有什麼不能』の作詞に携わっています。

 

3曲目に収録、蘇打綠の吳青峰が楽曲提供した『想對你說』。

 

今年の春、楊宗緯は大陸の音楽番組『我是歌手』(湖南衛視)に出場し、両岸で大きな話題となりました。『我是歌手』は2013年1月から4月まで13回に渡って放送された淘汰スタイルの歌唱コンテスト番組です。出場者は中華圏のプロ歌手7名。歌うのは他アーティストの楽曲のみ。会場の聴衆500名による投票で毎回1名が淘汰され、新たに推薦を受けた歌手1名を補充しながら最終的なチャンピオンを決定するというシリアスなシステム。辛曉琪、彭佳慧、齊秦ら台湾の実力派アーティストも出場した、かなり豪華な番組だったようです。3回目から登場した楊宗緯は第5回で一度淘汰されてしまったものの、第11回の敗者復活戦でトップとなり再び出場枠を獲得。最終第13回の決勝まで進み、羽泉、林志炫に次ぐ第3位に輝きました。

 

第3回で歌った『矜持』(王菲)、第4回『征服』(那英)、第5回『空白格』(蔡健雅)、第11回敗者復活戦『流浪記』(紀曉君)、同じく第11回『饞』(楊宗緯)、第12回準決勝『最愛』(潘越云)、第13回決勝、李泉とデュエットした名曲『我要我們在一起』(范曉萱・李泉)と『我離開我自己』(楊乃文)。

 

聴衆が思わず涙してしまうほどの情感豊かな表現力と圧倒的技巧は、超級星光大道の同期2名に勝るとも劣らない。ところが楊宗緯に対する評価は、悔しいことに台湾よりも大陸でのほうが目立っている状況です。『我是歌手』放送以降、人気が急上昇している大陸に比べ、台湾では何故か今ひとつ弱い。楊宗緯は現在、活動の中心を大陸に移しているとのこと。彼が自分らしく歌える場を見つけてくれたのは喜ばしいことですが、一抹の寂しさも感じます。

 

楊宗緯作詞、アルバムのオープニングを飾る『其實都沒有』。思いどおりにならない人生をしみじみと歌っています。自分の人生と重ね合わせるように…。

 

3rdアルバム『初.愛』で描いているテーマは、文字どおり最初の愛、純粋な愛です。そこには人に対してだけでなく、自身が愛した音楽への純粋な気持ちも込められています。楊宗緯は李宗盛に導かれた2ndアルバム『原色』で、揺らぐことのない音楽人としての信条を得ました。しがらみも迷いも吹っ切って初心に立ち返った今作から伝わってくるのは、のびのびとリラックスして歌っている自信に満ち溢れた彼の姿です。冒険はしていません。李宗盛がプロデュースした三部曲、7曲目『無邪』、8曲目『無常』、9曲目『出走』で一瞬緊張が走りますが、全体的にひじょうにオーソドックス、少々古風な香りのする作品となっています。

前作と比べて良し悪しを語るのはナシです。聴けば聴くほど楊宗緯のボーカルに魅了される、巧さが際立ってくる、『初.愛』はそんなアルバムです。

 

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