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楊宗緯、時代を越える名盤の誕生。

楊宗緯Aska Yangのニューアルバム『原色』が、8月26日にリリースされました。もちろんウチにも既にあって、愛聴盤の仲間入りをしています。先日のRTI台湾国際放送によると、この『原色』は発売直後の第1週、台湾でのC-POP中国語アルバム売り上げシェアの41.77%を占めたそうです。また首波主打(第1弾シングル)となった『懷珠』は、現在KISS RADIOのC-POPシングルチャート(第36週)で初登場第1位を飾っています。

 

楊宗緯Aska Yang『原色』(2011)

Aska-yang2011org

 

ヒットメーカー・李宗盛Jonathan Leeのプロデュースによるアスカのニューアルバム『原色』は、そのタイトルとジャケット写真が表現しているとおり、とてもシンプルな『色』で統一されています。収められている11曲(ボーナストラック1曲含む)のほとんどはじっくりと聴かせるバラード、R&Bです。C-POPに詳しい業界人らしいある方は、『暗さばかりが目立って疲れる。残念』と個人ブログで評していましたが、たとえば遠目では淡くシンプルに見える日本料理の数々も、実際にひとつひとつ近くで味わってみれば、どれも彩り豊かで鮮烈なように…、たとえばモノクロの写真ばかりを集めたギャラリーを訪れたときに感じた、それらの作品個々が発する静かだけど力強いエネルギー、溢れるメッセージ…、そういったものと同質の感動を僕はこのアルバムから受けました。ジョナサンとアスカが意図したのもおそらく、そこです。

10曲それぞれに意味がある。中国語もわからないクセにと言われそうですが、それでも伝わるものがあるのだから、やっぱりスゴイのでしょう?
アダルトコンテンポラリーの名盤が誕生したと思っています。

 

日本に伝わってこなかった、彼のこの3年間の様子もだいぶわかってきました。

2007年、アスカは28歳のときに新人オーディション番組『超級星光大道』第1シーズンに年齢を詐称して出場(参加資格は13~25歳迄)し、発覚後自ら舞台を降りましたが、それでも人気は全く衰えませんでした。当然レーベル各社からの引く手も数多。でもアスカは偽って出場したにもかかわらず、自分を高く評価してくれた番組主催レーベルである華研國際音樂HIMにとくに深い恩義を感じており、同社との契約を望んでいました。

ところがそこへ、この『カネのなる木』に目をつけた台湾では有名なウラの組織の大物や、それと組んだ悪徳芸能プロダクションの社長らから、アスカを譲渡せよとの強引な横槍が入ったのです。HIMも相手が相手だけに断腸の思いでアスカを手放さざるを得なくなり、甘言で篭絡されたアスカの家族は、彼の意に沿わない契約書にサインをしてしまいます。これが元で後にアスカは大きな契約争議に巻き込まれることになるのでした(なんだかもう、ドラマを地でイッてる)。

2007年12月、その組織の大物は露見した数々の犯罪容疑で警察に逮捕され、契約騒ぎは一旦沈静化します。それで翌年1月、華納音樂Warner Musicから1stアルバム『鴿子』をリリース出来たのですが、このアルバムが大ヒットしたことで契約権を持つ例の悪徳社長との間でまたしても騒動が紛糾。その後1年に渡って芸能活動はほぼ凍結状態となり、アスカは志を失い、消沈し、ゴシップ誌は彼が自殺するのでは…と書き立てるほどだったといいます。現在、維基百科に詳しい経緯が追記されていますが、とにかく次から次へと『とばっちり』を受け続け、かなり気の毒な状況に追い込まれてしまったようです。

一時は歌をやめて田舎で農業をすることも考えたそうですが、そんな彼を支えたのは、やはりたくさんのファンの声や、後ろ盾となってくれた人々の存在でした。その励ましに奮起し、あきらめず歌うことへの初志を貫くことが出来たのです。

2009年2月、アスカは弁護士を立てて契約訴訟を起こし、31回目の誕生日を迎えるちょうどひと月前、芸能活動凍結は事実上無効に。翌2010年1月22日に全ての訴訟は結審し、晴れてアスカは本当の意味での自由の身となりました。

 

林宥嘉Yoga Lin、蕭敬騰Jam Hsiaoらの同期から完全に遅れをとってしまったアスカに手を差し伸べたのは、台湾芸能界の大物…といってもこちらはちゃんとした方、張惠妹A-Meiや徐若瑄Vivian Hsuら多数の芸能人の後見を務めるゴッドマザー・葛福鴻(グーフーホン)でした。2010年6月、彼女の仲介でC-POP界のゴッドファーザー・李宗盛プロデュースによる、アスカのニューアルバム製作が決定したのです。『百万製作人』と呼ばれるジョナサン・リーがアルバムのフルプロデュースを引き受ける気になったのは、じつに16年ぶりのこと。それほどにアスカの才能を高く評価していたのですね。

 

ジョナサンは言います。アスカの歌を通じて、女性たちに男心を知って欲しいと。女性の歌を描かせたら並ぶ者なしと言われている、あのジョナサン・リーがですよ。

『これは本当に素晴らしい作品なんだ!これまでのアスカの努力、誠意、全てが歌の中に存在するとわかるはずだ』と、2011年の金曲獎三冠受賞者ジョナサン・リーは語っています。

 

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