今夜のOPナンバーは2017年10月公開、YouTubeのニッチMVチャンネル・雙下巴Indie Musicで、当時無名のインディーズバンドながら再生回数130万回を記録して注目を集めた荷爾蒙少年Hormone Boysのシングル、『4:00A.M.』でした。
令和4年1月29日、土曜日。時刻は午後9時8分を回っております。
皆さん、こんばんは。いかがお過ごしでしょうか。人知れずコッソリ不定期放送中、フェイクラジオ・sasanoji電台です。
2022年、もう1ヶ月終わりますよ~。早いですね~。
日本ではこれからいよいよ受験シーズンが本格化。そして卒業、進学、あるいは就職と、学生さんたちにとって大きな節目となる季節がやって来ますが、日本の3月卒業、4月入学というのは世界的に見ると珍しいそうですね。海外では9月入学という国が多くて、例えばアメリカやカナダ、イギリス、フランス、ロシア、それから中国、台湾なども9月入学となっているようです。その台湾では5月下旬から6月に掛けてが卒業シーズンなのですけども、毎年その時季が来るとネット上で畢業歌(卒業歌)なるものをたくさん見掛けるようになります。
卒業歌、卒業ソング、ピンときますかね。昨年の6月頃でしたか、第2廣播(Twitter)のほうで集中的にご紹介いたしました、ここでも過去に何度か触れたことがあります、例えば日本ですと卒業シーズンに合う歌として、レミオロメンの『3月9日』やアンジェラ・アキの『手紙~拝啓 十五の君へ~』などを思い浮かべる方、多いと思いますが、台湾の高校や大学では近年、音楽系のサークルを中心に、そういった卒業記念の歌・畢業歌(卒業歌)を自分たちで制作してネット上で公開するのが流行っています。学校によっては校内でコンテストを行なって、その年の卒業歌を決める、なんてところもあるくらい、季節のイベントとして定着してきているんですね。今回はその台湾の卒業歌について、特集いたします。よろしければ、しばらくお付き合いくださいませ。
今夜の2曲目です。2020年にメジャーレーベル・HIM華研國際音樂からデビューした男女3人組ヒップホップユニット、沒有才能anti-talentの『還是要有長頸鹿才能』をどうぞ。2019年3月、彼らが高校3年生のときに作った卒業歌の1周年記念バージョンです。
彼らが当時YouTubeで公開した『還是要有長頸鹿才能』の自主制作MVは、再生回数が100万回を突破。クリエイターズサイト・StreetVoiceでも注目を集め、ヒップホップチャート第1位、総合チャート第1位、年間シングル第3位を獲得するなど、2019年度、最も有名な卒業歌となりました。その後、HIMと契約。メジャーデビューしたんですね。
今夜のOPでお掛けした荷爾蒙少年Hormone Boysのメンバーも、2017年に大学の卒業歌制作に携わっていますが、台湾では近年、卒業歌がキッカケとなって本格的に音楽の道に進んだ、レーベルに発掘されてデビューしたという若いアーティストも増えてきています。
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そもそも、なぜ台湾ではこんなに卒業歌が流行っているのかですけども、おそらく今のブームが生まれる契機となったのは、2012年に擎天娛樂Skyhigh Entertainmentがリリースした『風箏』というタイトルの高校卒業歌アルバム(高中原創畢業歌合輯)だろうと思います。
擎天娛樂のCEO・劉虞瑞が当時、音楽好きの高校生たちが自分たちで作った卒業歌をネット上で公開しているのを知って、じゃあその卒業歌を集めてアルバムを1枚作ろうじゃないか、みんな応募してくれ、と高校生たちに呼び掛けたんですね。それで集まった歌の中から15校の作品を選んで収録したのが、台湾最初の卒業歌アルバム『風箏』でした。つまり台湾の高校生たちは、2012年以前にはもう自分たちで作った卒業歌をネット上で公開して楽しんでいたのですね。
当時台湾では高校生や大学生を対象とした学校対抗戦型のオーディションバラエティー番組が盛んでしたし、ネット上で自分たちが作った歌を発表することにもそれほど抵抗がない、そういったムードが既に醸成されいていたことも関係しているのかもしれません。
ちなみにこの卒業歌アルバム、台湾の卒業シーズンである6月に毎年新作がリリースされていて、昨年で10作目。アルバムタイトルはその年の合唱曲名が付けられているそうで、2021年度版のタイトルは『弦月』となっております。
ではここで1曲。その台湾初の卒業歌アルバム『風箏』から誕生した男女4人組ボーカルグループ・四個朋友Four Friendsの2ndアルバム『第二章』(2015年)から、『笑青春』をどうぞ。メンバーの1人・鄭宇伶Yolanda Chengは現在、羽伶Yu Lingのアーティスト名でソロでも活動中。2019年に1stアルバム『羽Feather』をリリースしています。
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さて、ここまで台湾卒業歌のあらましについてお話をしてきました。ここからはsasanoji電台が気に入った2021年度の台湾卒業歌を、S電賞風にご紹介していきます。
2021年の卒業歌、全部で100曲近く聴きましたが、これはヤバイですよ。売ってたらフツーに買うよね、というレベルの作品がザクザク出てきて、まあ~絞るのがタイヘンでした。聴けば皆さんもきっと衝撃を受けると思います。部門は大学編と高校編、2つに分けました。
まずは大学編からまいりましょう。sasanoji電台が選んだのは、以下の6作品です。どうぞ。
~大學篇~
國立中央大學『松果森林』
女性ボーカル2名(吳乃瑄,郭竹珈)と男性ラッパー2名(林恩霖,吳宗澤)による爽やか&クールなヒップホップナンバーです。曲名の『松果森林』は、中央大學のキャンパスは松の木が多いそうで、松ぼっくりがいっぱい落ちている、そんな思い出の風景をイメージして付けたそうです。
國立中興大學『興故事』
ボーカルの張翊婕、凄いですね。新竹女中(高校)時代の卒業歌も歌っているんですか。プロデュースと作曲を担当した張林祺も臺中一中(高校)で卒業歌制作に携わっているようです。2人ともプロ志向なのかな、クオリティーが高いですね。近い将来、出てくるかも。名前覚えておきましょう。
國立清華大學『梅璞』
卒業って晴れやかであると同時にどこかフッと抜けたような気分になるものですが、これはその抜けたほうに寄った珍しいタイプの卒業歌です。要注目は女性ボーカル・游恆嘉と男性ボーカル兼キーボード奏者の連亞喆。それからMVの撮影者にKEYNO[*1]の名前が入っててビックリ。たしかに雰囲気のあるMVですね。
國立陽明交通大學『rul 284』
学内のコンペで5曲の候補の中から選ばれた男女6人組バンド・蔓越莓豆漿[*2]の作品です。胸がキュンとする、まさに、さらば学生時代!という感じの素晴らしい卒業歌ですよね。昨年2月、交大[*3]は陽明大學と併合となり100年の長い歴史に幕を閉じました。その寂しさも込めた卒業歌でもあるのでしょうね。
國立臺南藝術大學『艾爾普燃星Airplane』
ストリングスやコーラスをタップリ使った、さすが芸術大学というゴージャスなサウンドです。プロデュース、作曲、編曲は李岦誱。2020年に臺南藝大の学生シンガーソングライター・曾筠芯のシングル『籠中鳥』に編曲で参加しているようです。MVの室内パートにも芸術大学らしさが出ていますね。
國立臺灣大學『和大笨鳥一起上學』
ボーカルは台大の歌姫、電機才女こと鍾麗文。作編曲も彼女が担当しています。岑寧兒や盧凱彤を彷彿とさせるボーカルとメロディ、これはそそられました。将来のことを考えて堅実な電気工学系を専攻したとのことですが、音楽のほうも良いのではないでしょうか。鍾麗文、要注目です。
以上、S電賞2021【台湾畢業歌】、大学編でした。
ここで1曲入れましょう。2020年度の高校卒業歌アルバム『萊特』から、各校の代表者による合唱曲『萊特Light』をどうぞ。なんと編曲、ギター、ベースの演奏はJADEの嘟嘟(魯綱宇)、ドラムは数多くのアーティストの作品で客演を務めている陳柏州ですよ。
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では、S電賞2021【台湾卒業歌】、続いて高校編にまいります。sasanoji電台が選んだのは、以下の8作品です。どうぞ。
~高中篇~
國立新竹女子高級中學『我的眼睛裡In Your Eyes』
作詞&ボーカルは李晴喆、謝芝庭、莊沛汶の3名。作編曲は張廷亦。大人っぽいサウンドですね。ブリッジのトランペット(張右靖)もイイ。周岳澄[*4]っぽい曲調なので、彼にプロデュースしてもらったらどうだろうとクレジットを見たら、なんとその周岳澄がマスタリングを担当していて鳥肌が立ちました。
臺中市私立衛道高級中學『追尋Searching』
え~と、本当に高校生の作品ですか?俄には信じられないクオリティの出来となっています。爽やかな王楷綸と何函璇のボーカルも素晴らしいですが、作編曲とギター、キーボードの演奏を担当している楊博皓が、かな~り気になりました。彼ら、いつかまたどこかで出会えそうな予感がします。要注目です。
新北市立三民高級中學『那道絢爛星光指引我邁向遙遠的地方』
コチラは高校生らしいハツラツとした雰囲気ですね。作詞作曲は共に三民熱音21屆となっていて、ボーカルや演奏者等の詳細は分かりませんが、J-POPに影響を受け日本に音楽留学した経験を持つギタリスト・高孟淵がプロデュースやレコーディングに携わっています。これも楽曲のクオリティが高いですよ。
國立臺南家齊高級中學『6:01 a.m.』
校内コンペで候補3曲の中から選ばれたようです。コンペ版のMVには黃柏竣(Vo)、黃暄閎・葉妍君(Gt)、蔡佳縉(Ba)、郭佳珈(Dr)、賴禹辰・顏妘夙(Key)の7名が演奏メンバーとしてクレジットされてましたね。洗練された曲の雰囲気とMV中の高校生らしい彼らの姿の差がとても微笑ましかったです。
臺中市立忠明高級中學『星星一直為你綻放』
昨年度、最も度肝を抜かれた卒業歌です。作詞作曲とボーカルを担当した陳欣妮、とんでもない才能の持ち主だと思いました。およそ卒業歌とは思えないぶっ飛んだメロディ、色鮮やかでリリカルな歌詞、アンニュイなボーカル、ピアノキーボードの演奏も彼女なのかな…。コレを高校生がやってるって…、参りました。
康橋國際學校林口校區『青色回憶The Secret of Memory』
康橋國際學校の林口校(高中部)の卒業歌ということでよいのでしょうか。これもクオリティが高いですね。ボーカルは韓菲Hanfiと羅億Roy、作詞作曲はこの2人と張家耀HCYの共作となっています。HCYはStreetVoiceにアカウントを持っていて、ソングライターの才を感じさせます。この3人、要注目ですよ。
新北市私立南強高級工商『搖滾畢業』
台湾では近年、ラップやヒップホップ、R&B、シティポップ等が人気で、高校の卒業歌にもそれが反映されてきていますが、この曲は今ではあまり見られなくなってしまった、別の意味で珍しいロックスタイルの卒業歌です。ボーカルは劉柏頜。大きな声で『高校卒業おめでとう!』と言いたくなる青春歌ですね。
嘉義市私立輔仁高級中學『R & J』
これも夢を描きながら、悩みを抱えながら成長していく高校生らしい卒業歌ですね。ボーカルは許柚柔。作曲とプロデュースを担当した陳儀愷と蔣佳哲は、これから出てくる人たちなのかな。よくわからないです。嘉義出身のバンド・美秀集團の冠佑が編曲と台湾語の歌詞指導で参加しているのも注目でしょう。
ここまで、台湾の卒業歌についてご紹介してまいりました。いかがだったでしょうか。
台湾では昨年、コロナ禍の影響で様々なイベントやセレモニーが縮小、あるいは中止となりましたが、とりわけ卒業を迎えた学生さんたちは気の毒でしたね。コロナ感染者が爆発的に増えていた時期がちょうど卒業シーズンと重なってしまって、ほとんどの学校で卒業式が行なわれませんでした。それもあるのでしょうか、昨年の台湾の卒業歌は、なんとなくいつもと違う思いを込めた作品が多かったように感じられました。
それにしても台湾の卒業歌、スゴイですよね~。この原石の中から将来、音楽の世界に羽ばたいていく若者がきっと出てくるに違いありません。業界の大人たちが変に絡んだりしない、こういった学生さんたちの主導による音楽ブームが日本でも生まれるといいなと思いますね。ただ、音頭を取る大人はやっぱり必要なので、どなたか、僕はヒャダインさんあたりが適任ではないかなと勝手に妄想しておりますが、どうでしょう。日本でも卒業歌ブーム、起こしてみませんか。
それでは今夜のラストナンバー、2021年度の卒業歌アルバム『弦月』から、VH(Vast & Hazy)の林易祺LNiCHが編曲とギター演奏で参加しております、合唱曲『弦月』を聴きながらお別れです。
台湾では明日から春節(旧正月)のお休みに入りますが、残念ながら今年も動けそうにない感じです…ね。しょうがないです。諦めましょう。自重しましょう。
東京・練馬の明日のお天気は曇り、最低気温は0℃、最高気温は9℃。降水確率は5%。乾燥した日が続いてますね。火事も増えております。皆さん、火の元にはじゅうぶんに気をつけてお休みくださいませ。お相手はsasanoji電台でした。ごきげんよう。拜拜!
卒業歌ブーム、マジで起こそうぜ。
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