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『賽德克・巴萊』二部作、GWにフルバージョンで公開。

賽德克・巴萊(Seediq Bale)

 

2011年9月に現地公開され大ヒット、その年の台湾金馬獎5部門を受賞した歴史超大作映画、魏徳聖(ウェイダーション)監督作品『賽德克・巴萊』(邦題:セデック・バレ)が、今年のゴールデンウィーク、ついに日本で公開されます。国際映画祭など海外用に編集されたインターナショナルバージョンではなく、前後編合わせて4時間半を超えるフルバージョンでの公開です。日本では昨年3月、第7回大阪アジアン映画祭で初上映され『観客賞』を受賞するなど注目を集めていますが、正式な興行としての上映は今回が初めてとなります。

 

 

映画『賽德克・巴萊』は、日本による台湾の植民統治開始から35年後、1930年に発生した原住民族・賽德克セデック族による最大規模の武装抗日暴動『霧社事件』を、前編『太陽旗』、後編『彩虹橋』の二部作(276分)で描いた歴史超大作です。

1930年10月、台湾中部山間の集落・霧社(現在の南投県仁愛郷)で、日本人官吏の横暴と圧政に不満を抱いた原住民族・セデック族(以前はタイヤル族の支族と見做されていた)による大規模な武装抗日事件が起こりました。モーナルダオをリーダーとする群衆は、警察署を襲ったあと運動会が行なわれていた小学校を襲撃。女性と子供を含む日本人134人が惨殺されるという大惨事となりました。日本側はただちに警察隊、軍隊を派遣。親日派原住民族も動員してこれを徹底的に鎮圧し、蜂起に参加したグループは自殺者を含め最終的に数百人が死亡、1400人いた人口は僅か500人にまで減ったとされています。

日本が台湾を植民統治していた時代があったことも数行で流してしまう日本の教育現場では、もちろん教わらない歴史です。何の予備知識も持たずこの映画を見た日本人は、おそらく大変なショックを受けることでしょう。

 

『賽德克・巴萊』が日本のマスメディアで目立って取り上げられるようになったのは東日本大震災の後、この作品がカンヌ国際映画祭に出品された2011年5月以降でしょう。その凄惨なストーリーから、深まる日台友好ムードに水をさす反日映画といったネガティブなイメージを与えかねない表現をする記事や、意図的にそれを煽るツイートの類いも数多く見られました。僕は台湾国際放送などを通じて、この映画が『反日』ではなく『歴史』を描いた作品だということはある程度知っていたので、日本で公開されればきっと日本人が台湾の歴史に興味を持つキッカケになると、関連する話題を何度かこのブログでも書いたことがあります。

その気持ちにやや不安が混じり始めたのは、カンヌ国際映画祭が終わり、現地で試写会が行なわれた夏頃。これを観た台湾人の反応、日本人の反応、その様子を伝える日本のマスコミの記事を読むにつれ、日本人はともかく当の台湾人でさえ受け止めきれていない、きちんと台湾の歴史を学んでからでなければこの作品を理解することは不可能なのではないか、日本で公開するのは時期尚早…との思いが徐々に強くなってきました。僕はもっと急速に日本人の親台化が進むと思っていたのですが、実際は未だ多くの日本人が芸能、観光あたりに留まったままで、歴史に興味を持つまでには至っていないのが現状です。たしかに台湾史など全く教わっていない知識ゼロの状態では、どこから学べばよいのか焦点を絞りづらいかもしれません。それが受け入れ難い歴史であればなおさらのことです。

日本人が受け入れやすい歴史としては、台湾人が親日である理由の一つ、日治時期(日本統治時代のこと)に日本人が残した功績があるでしょう。農業改革、インフラ整備、工業化の推進、教育、経済の発展に多くの日本人が寄与し、それが現在の台湾を支える礎となりました。

しかしその一面だけを都合よく解釈して、『台湾は植民統治されたことに感謝している』などと驕った発言をすることがあってはならない。『犬去りて、豚来たる』の言葉のとおり、これは日本が大東亜戦争に敗れて台湾を去った後にやって来た中国国民党の腐敗ぶりが余りにも酷かったため、日本時代のほうがマシだったと思われているだけのこと。この映画で描かれているように日本は植民統治の初期、武装抗日勢力の鎮圧と治安維持のために強力な警察政治をもって彼らを管理していたのです。そこにはたしかに公共秩序遵守の概念を植えつけるなど『功』の部分も認められますが、同時にあった『罪』も知らなければ、本質を大きく見誤ることになるでしょう。

 

先ほどこの映画を台湾人も受け止めきれていないと書きました。 どういうことか。

じつは監督の魏徳聖でさえ、10数年前までこの『霧社事件』という歴史の存在を知らなかったのです。彼だけでなく、1996年以前に学校教育を受けた世代は日本人が残虐だったとは教わっていても、それ以外の台湾史については学んでいませんでした。なぜなら、それまで国民党が行なってきた歴史教育はあくまでも中国大陸を中心とする中国史であって、台湾の歴史を知ることは統一の妨げとなるとして教えてこなかったからです。信じられないかもしれませんが、台湾史の教科書が誕生したのはつい最近、1997年のこと。つまり、現在台湾を動かしている人の多くが、台湾の歴史を知らずに育った世代ということになります。彼らは国民党から教わった残虐な日本人というイメージと、日本時代は良かったという上の世代から聞く話とのギャップに混乱しました。こういった経緯もあって、台湾の歴史教科書は中国や韓国のものとは異なり、日治時期についても『罪』だけでなく『功』の部分もしっかりと書かれた、ひじょうに冷静で公平な評価が成されたものとなっています。 ※先日取り上げたとおり、台湾の歴史教科書は馬英九国民党によって再び改正され、『中国化』(大陸との統一)を目論んだ記述が増えてきており注視が必要です。

『賽德克・巴萊』も教科書同様、『反日』でも『親日』でもなく、基本的には史実に基づいたストーリーとなっているようです。僕は未見ですが、個人的な印象としてはやっぱり日本人が見るにはまだ早すぎる映画かなー…という気がしています。もっと親台化が進んでからでもいいのではないか、と。今の段階でこの歴史を受け止められる日本人がどれくらいいるのか、ちょっと心配です。

 

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映画『セデック・バレ』公式サイト

 

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