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紙片人・白安は、見かけによらず分厚い。

白安Ann『麥田捕手』(2012)

Ann2012

 

中国語では痩せっぽちの人のことを『紙片人』と呼んだりします。孫燕姿Stefanie Sunや蔡健雅Tanya Chua、蔡淳佳Joi Chua、それから戴佩妮Penny Taiも以前はそう呼ばれていました。体重34kg…。彼女も間違いなくその1人。
陽の光に当たったことが無いのでは…そう思わせるほどに透き通った真っ白な肌、触れればカシャリと軽い音を立てて壊れてしまいそうなくらい繊細な体躯…。そして、ほかの紙片人たちと同様に彼女もまた、魅力的な歌声を備えています。

2012年12月21日リリース。相信音樂B'in Music所属の若手女性シンガーソングライター・白安(バイアン)の1stアルバム、CDデビュー作です。

 

アルバムタイトルナンバー、1曲目収録の『麥田捕手』。彼女の出演パートは北海道・函館で撮影。男優のほうはフランス・モンサンミシェルまで飛んでいます。

 

僕が彼女の存在に気がついたのは昨年3月のこと。台湾の男性ヒップホップアーティスト・布朗MrBrownの1stアルバム『用力』(2011年)収録の1曲『Somewhere』のMV、そこで布朗とデュエットしていたのが彼女でした。

 

ブログフロントページのプレイリストにはずっと入れたままにしているので聞き覚えのある方もいらっしゃるでしょうか。この曲はジュディ・ガーランドが歌ったミュージカル映画オズの魔法使い』の劇中歌『Over the Rainbow(虹の彼方に)』がベースとなっています。敢えて抑揚を抑えた布朗のラップと白安の大人びたハスキーボイスが絶妙にマッチした、都会的でセンチメンタルな1曲へと生まれ変わっています。僕はこの歌声から白安が年季の入ったインディーズアーティストだとばかり思っていたのですが、調べてみてビックリ。なんと1991年9月27日生まれ、華奢な外見が印象的な…まだ20歳そこそこの女の子だったのです。こういったショックは王若琳Joanna Wangを初めて聴いたとき以来でした。

 

本名は未公表です。白安は小学生の頃からギターやキーボードに親しみ、13歳のときにはもう創作活動を始めていました。クリエイターズサイト・StreetVoiceに加入したのは2008年8月、16歳のときです。

彼女によれば、今作のアルバムタイトル曲『麥田捕手』は、2007年9月28日、16歳の誕生日の翌日に作ったとのこと。『麥田捕手』は英語名だと『The Catcher in the Rye』、日本語名だと『ライ麦畑でつかまえて』。J.D.サリンジャーが1951年に発表した小説と同名です。白安は16歳の誕生日に初めてこの小説…高校を退学となった16歳の少年がニューヨーク(汚い大人社会)を彷徨い、毒づき、葛藤する3日間を描いた、ジョン・レノンを射殺したマーク・チャップマンロナルド・レーガン米大統領暗殺未遂事件を起こしたジョン・ヒンクリーの愛読書だったことでも知られるロングセラー…を読み、翌朝6時にピアノの前に座って書き上げたそうです。

彼女のプライベートについてはまだほとんど明かされていません。でもこの小説は千回読んだというくらい主人公の少年に深く共感すると語っていて、当時の彼女の中にも欺瞞に満ちた社会への苛立ちが相当にあったことが窺えます。『ライ麦畑でつかまえて』との出会いが、彼女の作風に大きな影響を与えたようです。

 

16歳の少女の作と知ったうえで改めて『麥田捕手』を聴くと、そこにゾッとするほどの才能を感じずにはいられません。StreetVoiceにUPされたDemo版のアクセス数は16万回を突破。独特の世界観を醸し出す洗練された楽曲の数々はネット上で高い評価を受け、2008年、台北で2年に一度開催される巨大音楽イベント・簡單生活節(シンプルライフフェス)に弱冠17歳にして出演。この少女のどこから湧いて出たのか想像もつかないようなマイナーナンバー『Bird』(アルバム6曲目収録)を歌って観客の度肝を抜きました。白安はそれから4年の間に400もの楽曲を創作。今回のアルバムにはその中から厳選した10曲を収録しています。

 

10曲目収録、首波主打『是什麼讓我遇見這樣的你』。

 

それにしても、なんと魅惑的なハスキーボイス…。

類い稀なる創作能力、痛々しいくらいの可憐な容姿に加え、これもまさしく天恵と呼んでいいものなのでしょう(歯並びの悪いトコがまたチャーミング^^)。行政院新聞局(現・文化部影視及流行音樂產業局)は昨年度、この才能に対して350萬元(約950万円)のアルバム製作補助を行なっています。相信音樂から出された企画では製作・李宗盛Jonathan Leeとなっていましたが、もしそうなら2011年の楊宗緯Aska Yang『原色』以来のフルプロデュース作品となります。※プロデュースは李劍青でした。

 

まだ21歳ですが、白安からは蔡健雅のような成熟したイメージと、同時にブラック系アーティストのようなソウルフルなイメージも感じます。この若さでいったいどんな音楽を聴いて成長すればこうなるのか…。R&B、ソウル、ジャズ、あらゆるジャンルに対応出来る才能を備えた、早熟の新人です。

でもときおり素の少女っぽさも垣間見せてくれて、その可愛さも魅力の一つなのです^^。

 

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