sasanoji電台【台湾ポップス専門】

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『台湾の兵役』について。

中華民国台湾には、現在も義務兵役制度があります。健康で標準的な体格をした男性は、皆、満18歳となる年にその対象となります。もちろん既に活躍中の俳優、ミュージシャンたちも例外ではなく、バンドのメンバーが兵役で抜けてしまい交代を余儀なくされたり、欠けたまま活動を続けることも台湾ではごく当たり前。活動困難となって休止、あるいは解散するバンドやユニットも珍しくありません。

かつて台湾と中国大陸両岸が激しく敵対していた時期には、兵役といえば生命を意識せざるを得ないものでした。陸・海・空軍への配属、勤務地は基本的にクジ引きで決められ、中国大陸に極めて近い最前線である離島・金門や馬祖の勤務となってしまった人たちは、台湾のアカデミー賞に掛けて『金馬獎に当たった』と、やるせない気持ちを冗談で誤魔化していたそうです。

 

その兵役制度も中国大陸との関係改善、軍備の進歩に伴い徐々に縮小されてきました。兵士の数はかつての43万人から最近では27万人にまで減り、3年だった兵役期間も現在では1年となっています。

さらに2014年からは基本的に兵役はなくなります。国防部及び内政部は昨年末、2012年1月1日より徴兵制を停止すると発表しました。1994年以降に生まれた男性は4ヶ月間の軍事訓練を受けるだけでよくなります。既に兵役対象となっていながらまだ服役していない人は別ですが、全て自分の意志で入隊する志願制となるのです。

また、2000年から特定の仕事をすることで兵役に服したと見なす『代替役』という制度も設けられていますが、これも義務兵役制がなくなると共に廃止されます。
代替役には警察や消防など政府機関の公共サービス勤務のほか、中華民国と外交関係を結んでいる外国で勤務する『外交代替役』という特殊なものもあり、今年は99人の若者が、22ヶ国、33の海外技術協力団、医療協力団、特別プロジェクトに就くことになっています。協力分野は農業や園芸、水産・養殖、公共衛生、医療、起業マネジメント、情報通信など多岐に渡り、それまで自分が学んできた知識を活かせることから、この外交代替役を希望する人も少なくないそうです。

ただ、台湾でも日本と同じく高学歴の若者の就職難が大きな問題となっていますが、国家を守るための兵役に対して、外交代替役は個人的なキャリアアップに利用されているのではないか、という批判もあるようです。

 

これはあくまで馬英九国民党政権下、両岸関係が良好であることを前提とした話で、2016年の総統選挙の結果如何では制度の見直し、停止を解除せざるを得ない状況もまた出てくるのかもしれません。

今年の夏前、台湾と中国大陸の大学生を対象に行なわれたアンケートの結果が発表されました。『今後、両岸の関係はどうあるべきか』を尋ねたアンケートなのですが、まず『台湾海峡の平和統一』について中国大陸の学生たちがどう考えているのか、北京大学台湾研究院がまとめた調査報告によると、
 中国大陸の国力が強まるのに伴って最終的に平和統一が実現する 88%
 武力解決をすべきである 5%
 基本的に実現しない 3%

『なぜこれまで統一が実現しなかったか』については、
 台湾独立勢力と外国勢力の介入が原因 43%
 台湾当局が原因 29%
 台湾の民衆が統一を願わないから 16%
 中国大陸側の対応に問題がある 12%

『どのように台湾問題を解決するのが適切か』については、
 平和的手段 58%
 平和的手段を主とし非平和的手段を補助とする 27%
 非平和的手段 13%

…という結果でした。

では、台湾の大学生はどうでしょう。台湾大学政治学科がまとめた報告によると、まず『どの国家アイデンティティが自分の考えに近いか』を尋ねたところ、
 台湾は台湾、中国大陸は中国大陸、相互に隷属しない 46.4%
 中華民国は台湾にある(李登輝氏の『中華民国在台湾』という考え) 24%
 中華民国イコール台湾である(民進党蔡英文女史の考え) 20%
 台湾と中国大陸は共に中華民国に属する 8%
 台湾は中国の一部である 1.6%

…と、なっています。つまり台湾の若者たちのほとんどは、台湾と中国大陸を切り離して考えているということです。

次に『もし台湾が主権独立を求めるため中国大陸との間で戦争が発生し、政府が召集令を発動した場合、人民はこれを拒絶する権利があるか』を尋ねたところ、
 ひじょうに同意する(拒絶する権利がある) 14.6%
 同意する 42.3%
 同意しない(拒絶する権利はない) 33%
 ひじょうに同意しない 10.1%

また、『もし中国大陸が武力で台湾を統一しようとし、政府が抵抗を放棄した場合、人民は徹底抗戦すべきか』については、
 ひじょうに同意する 16%
 同意する 34.9%
 同意しない 40.6%
 ひじょうに同意しない 8.5%

…という結果が出ています。つまり台湾の若者たちの多くは台湾中心主義ではあるものの、中国大陸と戦争状態になった場合の対応はほぼ二分されるということのようです。

 

兵役制度がないのはもちろん望ましいことですが、平時の理想論は権力に利用されやすいものです。日本人が語るのと台湾人が語るのとでは、同じ『兵役』という言葉の持つ重み、直面する危機への距離感も異なるでしょう。馬英九国民党のもとでの決定、思惑有りや無しや。少々気になります。