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川秋沙【カワアイサ】、カモ科の鳥 …じゃなくて。

川秋沙Goosander『人造沙洲』(2012)

Goosander2012

 

先日ピックアップしたCicadaと同じポストロックインディーズレーベル・小白兔唱片White Wabbit Recordsに所属、女性ボーカルの4人組シューゲイザーバンド・川秋沙(チュワンチウシャア)の1stアルバム、今年2月にリリースされた2枚目のCD作品です。

 

【川秋沙】とは、シベリア、ヨーロッパ、北アメリカ、中国大陸等に広く分布するカモ科の鳥の名前で、英語名だとCommon Merganser(北米)、あるいはGoosander(ユーラシア)。日本ではカワアイサと呼ばれ、冬の渡り鳥として知られています。台湾にも迷って飛来することがあり、バードウォッチングの対象にもなっているそうです。その『迷鳥』とされる鳥の名を、彼らは自分たちの名前に選びました。

 

7曲目収録の『車尾燈戀人』と、下はたぶん2011年7月01日に台北のCDショップ・誠品信義音樂館内で行なわれたライブの模様…だと思う、4曲目収録の『風尾』。


Unofficial

 

正式に活動を開始したのは2010年6月。当時はキーボードを含む5名体制でしたが、現在はボーカル&MIDI担当の紅一点・翁宜襄、リーダーでギター担当の林村宜Vincent(=文森)、ベースの黃柏翰(小柏)、ドラムの劉彥廷Hiko[*1]の4名です。上2つ目のYouTube映像はショップでのライブということでアコースティック感タップリな演奏となっていますが、基本は1つ目、エレキギターMIDIサウンドを駆使したシューゲイザー。でもあまりうつむいている感じはしませんね。人工建造物と自然との間を『迷鳥』のようにフワフワと浮遊するドリームポップ…、そんな印象です。

 

アルバムタイトルには、一見『沙洲』(=砂州)のように長い年月を掛けて堆積していったように見える台湾の芸術文化が、じつは目前の利益を追求するうち積み重ねられた不安定な『人造』であり、いつ消えてしまっても不思議ではない、そんな意味合いが込められています。

川秋沙最大の特徴は何と言っても歌のほとんどが台湾語であること。過去と現在を真摯に見つめ直した台湾語による歌詞と、これも意図したところなのでしょう、80年代から90年代、ひと昔前に戻ったような香りが漂う音の組み合わせ。台湾の人々にとっては色々と思い起こさせられ、考えさせられる内容となっているようです。

 

川秋沙が正式に活動を開始したのは2010年6月ですが、結成自体は2009年です。元は7年前に林村宜(Gt)と黃柏瀚(Ba)がSuedeBlurのようなブリティッシュロックをやろうとしたのが始まりで、その頃は現在のような浮遊感のあるスタイルではなかったそうです。成立時のメンバーは林村宜[*2]と黃柏瀚、江致潔Jesy(Key)、李思毅(Dr)[*3]、翁宜襄(Vo)[*4]の5名。ボーカルは当初ネットで募集をしましたがシューゲイズスタイルに合う声が見つからず、その後、ジャズバンドでアルバイトをしていた宜襄[*5]に即興で歌ってもらったところ、とてもいい雰囲気だったということで参加が決まったようです。

女性キーボード奏者の江致潔は、先日ピックアップしたポストクラシカルバンド・Cicadaの中心人物で、同時期、ギタリストの林村宜と共に双方を掛け持ちしていました。江致潔は2010年12月までは在籍が確認出来るので離団したのはその直後でしょう。2つのバンドにはスタイル的に重なる部分とぶつかる部分が多々あって、考え方の違いからどうしても離れざるを得なくなったようです。ただケンカ別れしたわけではないので、江致潔は2011年5月に川秋沙がリリースした5曲入りの1st EP『春日遲遲』でも作曲、プロデュースを含め全面協力していますし、林村宜もこのEPをリリースする直前までCicadaのギタリストを務めていました。江致潔作曲によるOPナンバーの『島嶼』にはCicadaが2010年にリリースした1st EPのタイトルナンバー『Over the Sea/Under the Water』のイントロ部分が使用され、両バンドの共通点と相違点がハッキリと解かる仕掛けになっています。

 

1st EP『春日遲遲』から、ポストクラシカルの色彩が濃い『島嶼』。Cicadaを歌入りで聴いている感じで、コレもいいですねー^^。

Unofficial

 

2010年の活躍が認められた川秋沙は、クリエイターズサイト・StreetVoiceによる『The Next Big Thing 2011年度十大新團』に選ばれたほか、1st EPリリース直前の2011年4月には行政院新聞局の録音補助対象バンドとして50万元を得ています。1stアルバム『人造沙洲』はこの資金を元手に制作された作品です。

 

川秋沙については『人造沙洲』が発売された後、一度記事にしようとネタを集めたのですが、難しすぎてあきらめました。先日Cicadaをピックアップした際に多少つながりが見えてきたので再度チャレンジしたものの、やっぱり難しかったです^^;。
誰にでもオススメ出来るアーティスト、作品ではないかもしれませんが、注目しておいていい、今後が楽しみなバンドには違いないです。

 

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関連記事
小白兔唱片のポストクラシカルアンサンブル、Cicada。(2012年7月7日)

 

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脚注

*1:17歳でジャズドラムを叩き始め、現在は3人組サイケデリックバンド・Psychoのドラマー、小白兔唱片の女性シンガーソングライター・鄭宜農Enno Chengのバックも務めている。

*2:現在は小白兔唱片のセールス&マーケティングも担当しているが、かなりデタラメな少年時代を過ごしている。公道ドラッグレースをやったり、バイクのパーツを盗んだり、あるときは盗難防止チェーンをカットしたところを持ち主に見つかって病院送りにされたこともあったとか^^;。大学の観光学科を卒業後、カタール航空に合格したものの、3年間アラブ勤務になることがわかってこれを断り、ホテルのアシスタント業務に就いたのち、音楽を楽しむために小白兔唱片に入社した。

*3:EP『春日遲遲』を最後に離団、新たに劉彥廷Hikoが加入した。

*4:宜襄は高校生の頃、歌唱コンテストで知り合ったレコーディングエンジニアのところでデモを歌ったり、友人たちと創作活動をしていた。当時数学の成績が良くなくて、自分には音楽の道しかないと思っていたようだ。その後、音楽学校でピアノや声楽、音楽理論などを専門的に学んでいるが、自分は音楽教師を目指しているわけではないと気づき休学。勉強し直して輔仁大學・哲学科に入学している。宜襄と文森はその夏休みのバイト中に出会った。また、宜襄は落日飛車Sunset Rollercoasterの初代メンバーの1人だったそうで、MIDI担当というのも頷ける話。

*5:宜襄は台湾語がまったくわからなかった。歌詞は林村宜が書いているが、その発音を英文字にして教えた。レコーディングする段になって、台湾語に詳しい阿飛西雅Aphasiaのギタリストでプロデューサーの小花(吳逸駿)と林村宜との間で言葉の習慣上の違いを巡って衝突があったらしい。林村宜は台中訛り、小花は高雄訛りだった…。宜襄は一生懸命勉強して歌ったが、微妙な発音の違いなどはHikoのドラムに消されてしまい、結局のところよく聞こえなかったようだ。