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小白兔唱片のポストクラシカルアンサンブル、Cicada。

Cicada『一起走吧 Let's Go!』(2012)

Cicada2011jul

 

2009年結成。今年1月まで台北のライブハウス《The Wall》と同じ公館の地下に本拠を置いていた独立系レーベル・小白兔唱片White Wabbit Recordsに所属する、C-POP界ではかなり珍しい、ピアノを中心としたポストクラシカルアンサンブルです。構成はピアノ、バイオリン、チェロの女性3名と男性ギタリストが1名の4人組(結成時はバイオリンが2丁の5名編成)。

Cicadaは7月1日、9曲入りの作品集『一起走吧 Let's Go!』をリリースしました。前作『散落的時光 Pieces』が昨年9月のリリースでしたから、10ヶ月足らずでの新作ということになりますね。

 

5曲目に収録、『蹦蹦 boom boom』。演奏の様子がUPされていました。

 

本作『一起走吧 Let's Go!』は、2010年10月に出版された台湾の若手女流作家・李維菁(リーウェイジン)の小説『我是許涼涼』をモチーフに制作されました。『我是許涼涼』は、年齢にかかわらず女性たちの中に存在する『少女』の部分を、ロマンチシズムに片寄ることなく描いた中・短編集。少女の持つ強い意志、何者にも動じない信念、それは彼女たちにとって原動力であり、ときに束縛ともなる。ピアノを担当するユニットの中心メンバー・江致潔Jesyはこの小説に影響を受けて、そんな『少女』たちの姿を作品世界に活かしたいと考えたのだそうです。一聴するとBGMにも出来そうなアンビエントな雰囲気も漂ってきますが、繊細で予測不能なメロディーはそれを許さない。電子楽器を使っていませんが、これもポストクラシカルと呼んでよいのでしょうか…、温かさと切なさを併せ持っているサウンドです。ぜひじっくりと聴き込んでみたい作品ですね。

 

Cicadaは、2009年秋に作曲とピアノを担当する江致潔Jesy、バイオリンの張靖英Anneと方昕Ashley、チェロの林宛縈Wan-ing、男性ギタリスト・林村宜Vincentら5名によって結成されました。メンバーのほとんどが芸大の出身で、音楽理論を専門に学んだアーティストたちです。正確な活動開始時期はよくわかりませんが、Myspaceにユーザー登録されたのは2009年8月15日。2010年1月1日付で彼らの処女作となるダウンロードEP『Over the Sea/Under the Water』の6曲がUPされています。またこの時期、江致潔はCicadaと同じく小白兔唱片に所属するシューゲイザーバンド・川秋沙Goosanderのキーボード奏者も務めていました。川秋沙は2009年に江致潔と林村宜らが結成したバンドで、2人は掛け持ちをしていたのですね。江致潔は川秋沙が2011年5月にリリースした1st EP『春日遲遲』にも参加をしています。

 

『最後 仍在一起 Finally...we're still together』。2010年3月21日に行なわれた5人での練習風景。右はEP1曲目に収録されているタイトルナンバー『Over the Sea/Under the Water』。

 

このMVから1ヶ月後の4月22日、彼女たちのFacebookにポストロックバンド・阿飛西雅Aphasiaとの合同ライブの告知が出ていました。ここではもうバイオリンの方昕Ashleyが抜けた4人体制となっていますね。彼女たちは3月24日にThe Wallで行なわれたアイスランド出身のポストクラシカルの貴公子、Ólafur Arnaldsのライブで前座を務めています。これがCicadaの本格的なライブデビューということになるようですが、そのときは5人で演奏しているので、方昕が抜けたのはその直後ということでしょう。上のMVの曲に付けられたタイトルから想像すると、そのときにはもう別れが決まっていたのかもしれません。

 

阿飛西雅については以前、小白兔唱片所属の女性シンガーソングライター・鄭宜農Enno Chengのデビューアルバム『海王星』をピックアップしたときに少し触れたことがあります。小白兔唱片は阿飛西雅の女性ベーシスト・KK(葉宛青)が1999年に立ち上げた独立系レーベルで、今年の1月19日まで、ライブハウス《The Wall》と同じ公館の地下フロアに本拠となるショップを開いていました。現在は2009年にオープンした師大店のほうに拠点を移しています。The Wall店の閉店に際しては、The Wall Live Houseと共に歴史を刻んできたことから惜しむ声も多かったようですが、そもそもThe Wall店と師大店が至近なうえ、師大店のほうが立地的に利用しやすいこと、The Wall店はコンサートで満員になると店内に入りにくいなどの理由もあって決断をしたようです。

 

話が逸れてしまいました。

CicadaがMyspaceにUPした6曲は2010年8月、自主製作に近い形でCDリリースされました。これは彼女たちも一緒になって手作りした作品で、不良品を除いた983枚が発売されましたがアッという間に売り切れてしまったそうです。年末には正式盤も発売されましたが、こちらも今では入手が困難です。

処女作となったEP『Over the Sea/Under the Water』は、コアな洋楽ファンからの信頼が厚かったポストロック系オンラインマガジン『The Silent Vallet』(現在はClose状態、Twitterで稼働中)選定の『The Top 100 Release of 2010』で100位にランキングされ、海外からも注目を集めました。この作品はMyspaceのほか、iTunesemusicでも試聴・購入出来ますので、ご興味のある方はぜひ^^。

 

Cicadaは2011年9月に1stアルバム『散落的時光 Pieces』をリリース。前作をより深く追求した内容となっているようです。この作品からギタリストが江睿哲Bambiに変わっています。5月までは林村宜Vincentがやっていたので、このアルバムのレコーディングからということでしょうか。林村宜もようやく川秋沙に専念する形で落ち着きました。

 

『散落的時光 Pieces』から『湖面的盡頭 Lake's End』、『晨霧 Drowning in the Fog of Yours』、『晨霧』の舞踊版MV。

 

僕がCicadaの存在を知ったのは昨年、鄭宜農をピックアップしたときです。彼女のデビューアルバム『海王星』は、阿飛西雅を始めとして小白兔唱片に所属するバンドが多数参加した、レーベル10周年を記念するような作品でした。その中にはもちろんCicadaもいて、江致潔はストリングスアレンジも担当しています。小白兔唱片には俯いてギターを弾いているイメージを一方的に抱いていたので、Cicadaみたいなバンドもいるんだなあとちょっと意外に思った記憶があります。

Cicada(蝉)というバンド名については、セミは長く地中にいて、ある日突然声だけが聞こえてくる。控えめに姿を隠して音のみを印象づける、そんなイメージから付けられたとのことです。

 

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