sasanoji電台【台湾ポップス専門】

こちらはsasanoji電台第1廣播、TW-POP専門チャンネルです。

台湾の歌手オーディション番組。

この時期、新作のリリースが落ち着いているので、今回は台湾の歌手オーディション番組について少し勉強してみました。

 

台湾ではTVのオーディション番組出身のアーティストがたくさん活躍しています。このブログで取り上げたことのある徐佳瑩Lala Hsu、符瓊音Meeia Foo、梁文音Rachel Liang、張芸京Jing Chang、楊宗緯Aska Yang、蕭敬騰Jam Hsiao、みんな番組で発掘されたアーティストたちです。

日本でも昔、『スター誕生!』(通称:スタ誕)という新人オーディション番組をやっていました。ただ、『スター誕生!』がアイドル発掘をメインとする番組だったのに対し、台湾の番組は、大陸や東南アジアを含む華人ポップス界で通用する本格派のアーティストの発掘に主眼を置いているようです。むしろ『スタ誕』とほぼ同時期にやっていた勝ち抜きスタイルのオーディション番組『全日本歌謡選手権』のほうが匂いは近いかもしれません。

近年で言えば、残念ながら昨年末終了してしまいましたが、テレ朝でやっていた全国のアマチュアアーティストを紹介する番組『THE STREET FIGHTERS』(通称:ストファイ)が強く印象に残っています。とくに番組後年に開催していた『ストファイHジェネ祭り』での、若者たちが全国のトップを目指して勝ち上がっていく過程に同様のテンションを感じました。また日テレの番組『歌スタ!!』も、プロが大きく絡むという点は異なりますが、淘汰されていく過酷さは似ているかもしれません。

 

台湾にもポップス界に大きな影響を与えた番組が2つあります。開始年は共に2007年。1月にスタートした金星娛樂製作による『超級星光大道』と、10月スタートの友松傳播製作による『超級偶像』です。ブログにもこの2つの名前はときどき出てきますね。それぞれ別のTV局が週1回、約120分の番組を放送。システムもよく似ていて、審査員を務める一流アーティストらが下す評価点の優劣で出場者を淘汰しながら、半年以上をかけて冠軍(チャンピオン)を決定する、長丁場のサバイバルオーディションとなっています。番組製作には通常いずれかのレコード会社が共同主催で参加し、勝者にはアルバムリリースとデビューへの道が開かれます。

大きな違いとしては出場者の年齢制限規定でしょうか。番組開始時期が後発の『超級偶像』は、出場者の職業・年齢に制限を設けていません。これは想像ですが、既にスタートしていた『超級星光大道』第1シーズンで発生した楊宗緯の年齢詐称事件も影響しているのではないでしょうか[*1]。才能がありながら年齢だけでそのチャンスを奪われるのはあまりにも理不尽だ、と。年齢制限を設けなかったことで『超級偶像』の出場メンバーはかなりバラエティに富んでいて、25歳以上の逸材も数多く発掘されています。

 

昨年までに『超級星光大道』は7シーズン、『超級偶像』は5シーズンを数えていますが、視聴率的にはどちらも下降状態にあり、出場者たちのレベル低下を要因とする向きもあります。『超級偶像』は昨年第6シーズンから大学生を対象とした新企画『校際爭霸戰』に衣替えし、現在第7シーズンを開催中。視聴率が低迷した『超級星光大道』も昨年7月から『華人星光大道』となって再スタート、今年1月に第1シーズンが終了しています。

 

超級星光大道』出身者には、林宥嘉、楊宗緯、蕭敬騰、神木與瞳Y2Jの賴銘偉と黃美珍、梁文音らがいます。『超級偶像』からは張芸京、符瓊音らが誕生しました。

番組が与える課題の中には二人一組で歌うデュエット対決や、道場破りの挑戦者と戦うPK戦、敗者復活戦などもあって、梁文音は途中で一度淘汰されましたが敗者復活に成功し、最終的に第2位となりました。張芸京は一度淘汰されながらも復活し、チャンピオンになったアーティストです。蕭敬騰は本選ではなくPK戦の挑戦者として出場しましたが、素晴らしい歌唱力で名を上げ、張惠妹のデュエット相手に選ばれるキッカケとなりました。

また、出場者たちは半年以上をかけて戦い、共に過ごすうち、ライバル同士でありながら同期としての強い絆で結ばれてゆきます。そして見守る観客や視聴者たちも、終局が近づくほどに、ときに涙を誘われる場面を見ることにもなるのです。

例えば『超級星光大道』第1シーズン、楊宗緯と蕭敬騰のライバルと認め合った2人による感動的な戦いと結末。第2シーズンでは賴銘偉と黃美珍が互いを思いやる関係となり、番組終了後に神木與瞳Y2Jを結成しました。張芸京が出場した『超級偶像』第1シーズン、彼女は途中で歌詞を忘れ歌えなくなってしまい、淘汰され去ってゆくその姿に涙するメンバーたちが印象的でした。観客それぞれが感情移入出来る、ひとつの青春群像劇を観ているような趣きです。

それ故に番組で発掘された新人が、デビュー直後にいきなりブレイクすることも台湾では珍しくありません(実際にはデビュー前からブレイクしている)。出場者が勝ち抜きながら自分を応援してくれるファンを作ってゆく、台湾の公開オーディション番組ではそんなシステムが既に出来上がっているのです。新人にとってこれは心強いことでしょう。

 

日本にもレコード会社などが主催するオーディションはいくつかありますが、デビュー出来たとしてもほとんどの場合、ゼロからのプロモーションをしなければなりません。聴く側の、自分たちが育てているという感覚が今のJ-POPには希薄なのです。それを補うために大物と呼ばれるプロデューサーたちはわざわざ未熟な、どこにでもいそうなタイプの新人を用意しデビューさせ、ファンに育成感を与えている…、そんな気がしてなりません。

そこへいくとむしろ、K-POPのほうが育成感を与えるという点では勝っているのではないでしょうか。まだ本国でも有名ではないグループを日本でデビューさせ、ファンを作り、自分たちが育てたという喜びを日本人に与える。そして彼らが向こうに戻ってビッグになってくれれば、応援してきたファンにとってはさらに嬉しいことでしょう。

僕は韓国が好きではないので乗せられることはありませんが、戦略面ということで言えば、上手いことやるなーと歯がゆく思っています^^。

 

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脚注

*1:超級星光大道は参加資格を13~25歳迄に制限していた。