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小白兔唱片の新星、鄭宜農。

鄭宜農Enno Cheng『海王星(2011)

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7月8日リリース、1987年生まれの若手女優・鄭宜農(チェンイーノン)のデビューアルバムです。
台湾の独立系レーベル・小白兔唱片White Wabbit Records(WWR)に所属する唯一の女性シンガーのデビューを、同じくレーベル所属の先輩たちが全面バックアップしています。収められている楽曲は全て彼女の手によるもの。歌声はナチュラル、前向き、ときに繊細。熱く巨大なエネルギーを冷たい氷で覆った海王星は、『最も自分を象徴している惑星だ』と鄭宜農は語っています。

 

4曲目に収録、第1弾シングル『大雨城市』。

 

鄭宜農は今回突然歌手デビューしたわけではありません。自身が主演した2007年公開のスクリーンデビュー作『夏天的尾巴(Summer's Tail)』の劇中で、既に自作曲を歌っています。その映画の音楽を担当したのが阿飛西雅Aphasiaら小白兔唱片のアーティストたちでした。まだレーベル加入前だった彼女の楽曲も、映画のサウンドトラックに収められています。

 

小白兔唱片White Wabbit Recordsは、台北の有名なライブハウス《The Wall》と同じ公館の地下に本拠を置く独立系レーベルです[*1]。1999年に阿飛西雅Aphasiaのベーシスト・KK(葉宛青)によって設立され、ライブハウス・聖界の運営などを行なっていました。2002年にアメリカのポストロックバンド・Explosions in the Skyを招聘。同年、薄荷葉The Peppermints、壞女兒Bad Daughterのアルバムリリースをもってレーベルは正式稼働します。The Wallに出店したのは2003年、鄭宜農の加入は2009年のことです。

アルバム『海王星』は、阿飛西雅Aphasia、Cicada、風籟坊WindMillほかレーベルに所属するアーティストが多数参加した、小白兔唱片10年の精華でもあります。

 

当然日本語の情報はほとんどありませんでした。またまた中文記事からのツマミ食いです。

鄭宜農は12歳の誕生日にお母さんから小さなギターを貰いました。もっともそこでは幾つかの基本コードと古い歌を教わっただけで、じきに部屋の片隅で飾りになってしまったようです^^;。再び彼女がギターを手にしたのは19歳、大学生のとき。真夜中まで遊んでいられる毎日に嫌気がさして始めたのが、ギターを片手に歌うことでした。ギターのイロハは、The Wallでも有名なインディーズバンド・橙草樂團Orangegrassのボーカル・克拉克Clarkに付いて1年ほど学びました。映画『夏天的尾巴(Summer's Tail)』に出演したのもその頃です。鄭宜農はギターが大好きな病弱な女子高生の役を演じ、台湾のアカデミー賞である金馬獎の最優秀新人賞にノミネートされました[*2]。

この映画を監督した鄭文堂(チェンウェンタン)は、世界各国で数々の映画賞を受賞している台湾を代表する名監督です。その名監督を父に持つのが、じつは鄭宜農でした。2009年公開の鄭文堂作品『眼淚(Tears)』でも前作に続いて主演すると共に主題歌も担当。彼女が歌った『莎呦娜拉(SAYONARA)』は、2009年度金馬獎の最優秀主題歌賞にノミネートされています。

 

7曲目に収録、社会派映画『眼淚』の主題歌『莎呦娜拉(SAYONARA)』。前作の女子高生役とはガラッと変わって、ヘビーな役柄・檳榔(ビンロウ)売りにチャレンジしています。

Unofficial

 

女優だけでなくシンガーソングライターとしての才能も見せてくれた鄭宜農でしたが、撮影終了後に訪れたニューヨークで、彼女は自身の音楽人としての甘さを認識することになります。

旅先で出会った同年代の新人たちは、自分よりもはるかに厳しいトレーニングを積み、ハイレベルなステージを追求し続けていました。そのストイックな姿勢にショックを受けた彼女はそれまでの自分を反省し、音楽の道に専念することを決意。2009年に小白兔唱片と正式契約して以降は精力的にレコーディングやライブ、創作活動を行なうなど、探求、練磨を重ねていきます。2年をかけて完成させた1stアルバム『海王星』は、その第一歩を標した作品です。

 

10曲目に収録、第2弾シングル『城堡』。

 

YouTube上にはライブ映像が多くUPされていて、やっぱりアコースティックなスタイルを基本とするアーティストという印象が濃いですね。MVはまだ2曲しか流れていませんが、どんなアルバムになっているのでしょう、気になります。

 

鄭宜農のスクリーンデビュー作『夏天的尾巴(Summer's Tail)』の予告編。YUIを彷彿とさせる。日本未公開作品?観てみたい。

 

2008年台湾公開の仏英合作映画『狐狸與我(The Fox and the Child)』の中文版主題歌『輕輕愛』。

 

2010年クリスマスイブに小白兔唱片ショップ内で行なわれた即興ライブの映像…でしょうか、おそらく。なんだか一杯やっているっぽいカンジですwww。

 

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脚注

*1:The Wall店は2012年1月19日に閉店、本部は師大店に移動した。

*2:大学は、やりたいことがたくさんあるとの理由で2007年に休学している。