戴愛玲Ailing Tai『愛霊霊』（2009）
1978年生まれ、原住民族・排湾パイワン族出身。ドラマチックに歌い上げる歌唱力が魅力の実力派女性シンガー、戴愛玲（ダイアイリン）の4thアルバムです。この作品のテーマはタイトルからもわかるとおり、『愛』。収められている10曲にはそれぞれに『Love Sign』、つまり『愛のおまじない』が秘められているそうです。中でも『愛靈靈三部曲』と名付けられた1曲目の『空港』、2曲目『愛霊霊』、4曲目『沸騰』は別次元の素晴らしさ。ジ～ンと聴かせてくれる、さすが戴愛玲と唸らずにはいられない傑作アルバムです。
『空港』、『愛霊霊』、『沸騰』を続けてどうぞ。あれ？『空港』と『沸騰』のタイトルが入れ替わっている。最初のほうが『空港』で正解。下は“戴式爆吼唱功”が炸裂する素晴らしいアルバム予告編。
コレ聴いただけでもう買いでしょ^^。
三部曲1曲目のタイトルとなっている『空港』は、本来中国語では『機場』と言うそうですが、ここでは日本語と同じ『空港』を使っています。もちろん同じ意味であることも台湾では理解されています。このように日本語がそのまま使われる例は台湾では珍しくなくて、以前紹介した徐佳瑩のアルバム『LaLa』の1曲目に入っている『喔伊細』は、発音のとおり意味も同じ『美味しい』です。面白いところでは、タクシーやトラックの運転手のことをちょっとくだけた感じで呼ぶときに『運ちゃん』と言ったりします。使用法は日本と同じですね。場を間違えなければ失礼にはあたらないでしょう。これは余談でした。
戴愛玲は、素晴らしい独唱やコーラスで知られる原住民族・排湾パイワン族の出身です。民族名はルク。ルクは幼い頃から両親に厳しく躾けられていたこともあって、あまり家の外には出ない、おとなしくてちょっと引きこもり気味の少女だったそうです。唯一の楽しみは、音楽好きの叔父さんがかけてくれるレコードを聴くこと…。
でも、そんな引きこもりの少女ルクが、人前に出ることを嫌がらないときがありました。皆が集まる新年や節句のお祭りでは人が変わったように、恥ずかしがって気後れすることもなく歌ったのだそうです。ある人は、彼女が本来持っている排湾族の血が目覚めるのではないかと言います。厳格に育てられ抑圧されていた野生の血が甦るのではないかと…。こうしてルクは一族のアイドル的な存在となったのでした。
逸材であると確信したルクの叔父さんは、レコーディングルームを借りて作ったデモテープを、あちこちのレコード会社やプロデューサーたちのところに持ち込みました。また彼女の魅力は舞台の上でこそ発揮出来ると考え、正式なパブでプロデューサーらに歌声を披露する機会を作ります。彼女にとっては初めての舞台でしたが見事期待に応え、1998年、メジャーレーベル・滾石唱片Rock Recordと契約。そして同年、当時19歳だった無名のシンガー・戴愛玲が、同社所属の人気女性シンガー・趙詠華のデュエット相手として異例の抜擢をされたのです。
実力派女性シンガー・趙詠華とのデュエット、『I Will Smile』。
上のライブ映像は1998年の文字も見えますのでデビュー前のものでしょうか、スゴイもんです。趙詠華とタメ張ってます（ちょっとオドオドしてるとこがカワイイ^^）。この『I Will Smile』はアルバム『愛霊霊』の10曲目に収められているのですが、1999年にリリースされた趙詠華のアルバム『想見太晩』が初出です。その歌唱力は注目を浴び、2002年、彼女がアルバムデビューを果たすキッカケにもなりました。
台湾では肺活量が多いことを『鉄肺』と言います。男性歌手なら『鉄肺王子』、女性歌手なら『鉄肺公主』となります。彼女もその『鉄肺公主』の1人。また、鉄の喉を持つプリンセス『鉄嗓公主』とも呼ばれていて、彼女の爆発的な歌唱は『戴式爆吼唱功』と名付けられています。
戴愛玲はその後もゆっくりとですが順調にキャリアを重ね、2010年5月には5枚目のアルバム『跳痛』をリリースしています。
5thアルバム『跳痛』の2曲目に収録、タイトルソング『跳痛』。この作品は『愛霊霊』のストーリーを引き継ぐ、傷ついた女心を代弁する作品となっているようです。
パブで彼女の歌声に魅了されたプロデューサー・姚謙は、そのときのことをこう語っています。まるで魔術に掛かったようだった、と。話すとオドオドとして自己紹介するのがやっとだったのに、ひとたび歌い始めれば神の如き力を発揮する。大自然の中に戻ったように裸足で舞台を踏みしめ、自由奔放に歌い、楽しんでいた、と…。
戴愛玲曰く、排湾族のまじない師は大きなパワーを持つ魔法使いだそうで、あながちそれも間違いではなかったのかもしれません。
『霊霊』は、『天霊霊、地霊霊』など呪文によく出てくる言葉。
TW-POPを買って、台湾に感謝！Princess Aiの放つ『愛』の魔法にかかるべし！
