sasanoji電台【台湾ポップス専門】

こちらはsasanoji電台第1廣播、TW-POP専門チャンネルです。

sasanoji radio Awards 2021【Best Music Video】

 

 

今夜最初にお送りした曲は、2021年12月リリース、女性シンガーソングライター・吳汶芳Fang Wuの3rdアルバム生存法則から、安息感と寂寥感がさざ波のように寄せては返す胸がキュンとするナンバー、人間遊戲でした。

 

 

令和4年5月8日、日曜日。時刻は午後10時4分になるところです。

皆さん、こんばんは。いかがお過ごしでしょうか。人知れずコッソリ不定期放送中、フェイクラジオ・sasanoji電台です。

 

台湾ではそろそろ金曲獎の候補が発表される時期ですね。2020年、2021年の金曲獎は、コロナ禍の影響で開催が大幅に延期されてしまいましたが、今年はどうでしょう~、またちょっと感染者数が増えてきているようですけども、現在の様子からするとおそらく、例年どおりに開催されるのではないでしょうか。5月中旬に候補を発表、6月下旬に授賞式という、いつもどおりの流れになるだろうと予想しております。ということで金曲獎の候補が発表される前に、sasanoji radio Awards 2021【Best Music Video】を、またやっておきましょう。

 

僕は現在CDはほとんど購入してなくて、主にYouTubeで台湾の音楽を楽しんでおります。なのでアルバム単位でのご紹介がね、ちょっと疎かになってしまっているのですけども、MVのほう、これはよく観ていますので、2018年度版で一旦終了したsasanoji電台の個人アワード・S電賞【Best Music Video】部門だけなら出来るかなと、昨年復活させました。

台湾のMV、ドラマ性が高かったり、アーティスティックだったり、本当に見応えのある作品が多いですよね。今夜のOPでお掛けした吳汶芳『人間遊戲』のMVも超美麗で、TVの大きな画面でジィ~ッと凝視してしまいましたよ~。夜の街中を一人の~んびりと散歩しているような気分になる、《寂しいも楽しい》を実感させてくれる本当に素敵なMVだなと思いました。

そんな素敵な台湾のMVの中からsasanoji電台的視点で今回も6作品、選んでおります。例によって映画やドラマのシーンを使ったPV的なもの、ライブ映像作品などは外していますのでご了承ください。

 

それでは、sasanoji電台が選んだ2021年度の【Best Music Video】の発表です。

 

 

sasanoji radio Awards 2021
【Best Music Video】

 

 

 

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林以樂YILE LIN沙漠玫瑰與駱駝(導演:蘇柏維)

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2021年3月公開、インディーポップバンド・雀斑Frecklesの中心メンバーでもある個性派女性アーティスト、斑斑こと林以樂(リンイーラー)沙漠玫瑰與駱駝です。監督は、以前ここで何度か触れたことがありますね、五月天MayDay盛夏光年-劇情版-』(2015年の傑作!)や安溥Anpu『ZOEA』(2019年)などを手掛けた映像製作会社・有機像素Hi-Organicの創設者・蘇柏維Suです。安溥と蘇柏維は2019年に結婚して1女をもうけていますが…、あ~今年1月に離婚してますね。たしかに安溥の好みかも…というバックグラウンドを持っている方だと思います。これは余談でした。主演は劇団・何日君再來の芸術総監督で女優の蔡宜真IChen Tsai。彼女の子供時代を子役の陳芓妤TzuYu Chenが演じています。

このMVは…芸術方面を一度でも志したことのある方には、刺さるMVではないかと思いますね~。まあ芸術に限ったことではありませんが、自分が諦めた(手放した)はずの夢(作品や企画)が、ある日突然目の前に現れた(認められた)としたら、どうですか。しかも他人の作品の中で無名のまま生かされているとしたら…。おそらく嬉しさは感じるでしょう。でも評価された喜びと同時に、悔しさや、やるせなさも湧いてくると思うのですよね。蔡宜真の最後の泣き笑いにそんな複雑な心情が感じられて、なんだかコチラの胸まで熱くなってしまいました。実在の平面設計師(グラフィックデザイナー)・方序中Joe Fangと写真家・蘇益良Liang Suも本人役で出演していますので、台湾アートシーンにご興味のある方、ぜひチェックしてみてください。

 

 

A Piece of Cake 256寂寞的人(導演:順)

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2020年7月、音楽フェス・浪人祭Vagabond Festivalの前夜祭フィナーレに突如現れた中年男性4人組の新ロックバンド、A Piece of Cake 256(APOC256)の1stアルバム一切交給時間(2021年4月リリース)収録のナンバー、2021年5月に公開された寂寞的人のMVです。新バンドと言いましたが、じつはメンバーはボーカルが隨性樂團Randomの蛋糕(葉倬宇)、ギターは非人物種Inhumanの大眼(柳凱鐘)、ベースは激膚My Skin Against Your Skinの阿儒(尤世儒)、ドラムスは倒車入庫Reversing into Garageの喵(陳銘修)というベテランの集まりなんですよね。現在休団中の隨性樂團の葉倬宇と激膚の尤世儒が、なんですか同じケーキ(蛋糕)会社?で働いているんですか?それでもっとストレートなロックをやりたいよねという話になって、柳凱鐘と陳銘修を誘って結成したと。バンド名の由来は、会社の名前と住所の番地だそうです。マジか…^^;。今年の金曲獎に入ってくると思うので、ぜひ注目しておいてください。※入ってきませんでした^^;。

さてMVのほうですけども、これも力作ですね。監督は…なるほど、隨性樂團や激膚、それから傷心欲絕Wayne's So SadなどのMVを手掛けている順Shaun Liuが担当しています。気心が知れた監督さんということでしょう。出演は、お父さん役が2020年の第55屆金鐘獎で【迷你劇集/電視電影男配角獎】を受賞した名優・廖欽亮Chin Liang Liao。息子役は汪奇威Kiwi Wang…、若手の役者さんかな?が演じております。たしか小米Johnny Tsai『如果我不想說』、春艷Chunyan『魔法BOY feat. 持修』のMVに出ていましたね。ストーリーは、親の心子知らず、子の心親知らず。いつの時代にもある親子の話です。反対していても親はいつだって子供の味方、ボーカルの葉倬宇は自分が親になって初めて親の気持ちが理解出来たと、過去の自分と両親の関係に思いを馳せてこの曲を書いたそうです。最後、笑顔で去って行くお父さんのシーンは、ホントもう…涙なしには見れませんでした。

 

 

拍謝少年Sorry Youth山盟(導演:林龍吟)

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2021年4月リリース、男性3人組ロックバンド・拍謝少年Sorry Youthの3rdアルバム歹勢好勢収録のナンバー、2021年7月に公開された山盟のMVです。これはひじょうにシリアスなテーマを含んだ作品です。台湾ではかつて林業が盛んでした。日本が台湾を植民統治していた時代、1912年から大規模なヒノキ伐採事業が始まって、1945年、敗戦に伴って日本が台湾を去った後、代わって大陸からやって来た中国国民党がヒノキ林の伐採を更に拡大し、林業は台湾を支える一大産業となりました。ところが過剰な伐採によって多くの森が消え、土地が痩せて大規模な水害が起きたり、また世界経済の落ち込みによって販売に支障をきたしたりと次々に問題が発生して、伐採量は1971年をピークに減少に転じ、政府は森林保護へと方針を転換。そして1991年、自然林の伐採を全面的に禁止することを発表しました。

このMVはまさに天然林伐採禁止後の衰退した台湾林業に従事する人々の暮らしを描いた作品で、自然と共に生き、かつては森を聖域と崇めていた原住民族の悲哀がひしひしと迫ってくる、重厚で幻想的な内容となっています。監督は映画『蚵豐村』(2019年)で注目を集めた1987年生まれの新鋭・林龍吟Lungyin Lim。主演は、日本統治時代の1930年に発生した原住民族・賽德克(セデック)族による最大規模の抗日暴動《霧社事件》を前後2部作で描いた2011年公開の歴史超大作映画『賽德克・巴萊』(邦題:セデック・バレ)で、主人公・モーナルダオを演じた原住民族・泰雅(タイヤル)族出身の牧師兼俳優・林慶台Nolay Piho。その息子を彼の実子・林山が演じています。林慶台、久しぶりに映像で見ましたが、この迫力、存在感、やっぱり圧倒されますね。2021年、とくに心に重く残った1本でした。

 

 

梁靜茹Fish Leong明天,雙人舞(導演:邱柏昶)

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マレーシア出身のベテランシンガー、ラブソングの女王・梁靜茹(リャンジンルー)が2021年9月にリリースした3曲入りのデジタル配信専用EP時光隨想・三日思収録のナンバー、2021年10月に公開された明天,雙人舞のMVです。このEPは《今日》、《昨日》、《明日》、3つの時間をテーマとした作品で、3曲目収録の『明天,雙人舞』のテーマは文字どおり《明日》。落ち着いたバラードを得意とする梁靜茹には珍しい、明るい未来をイメージさせる華やかで若々しいダンスポップチューンとなっています。

MVは、M(音楽)とV(映像)のバランスが大切です。いくら映像が技術的に凄くても、それが突出して目立ってしまったらダメなんですね。MVの映像は、あくまでも音楽を引き立てるためのもの、音楽の邪魔をしないことが重要と僕は考えていますが、このMVはMとV両方のバランスが絶妙で、ホント理想形だと思いました。台湾の青い空と青い海、カラフルでノリの良いリズム、白い波の上で踊る2枚のサーフボード、夕陽を見つめる男と女、出会いと別れ、爽やかさとほろ苦さ…。余韻を引くEDも胸キュンですよね~。監督は、ここでも何度か紹介したことがあります、Vast & Hazy『求救訊號』、宋楚琳&馬念先『去年冬天』、甜約翰Sweet John『城市的浪漫運作』など、近年話題作を数多く手掛けている新鋭・邱柏昶Birdy Nio。良い仕事をしています。出演は、吳威毅Wei Yi Wu尹以晨Canney。吳威毅は『大海旅人』という海の魅力を発信するYouTubeチャンネルを運営している動画クリエイター。尹以晨については…よくわかりませんでした。ご存じの方いらっしゃいましたら、ぜひお教えくださいませ。この曲、2021年度のベストトラックのほうでも選んでいますので、sasanoji電台的には“完璧なMV”、ということになるでしょうね。

 

 

余佩真JenJen甘吧爹ㄋㄟ(導演:蔡宜豫)

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サブスクでの配信開始は2021年10月(KKBOXは2021年8月)、歌詞版MVはその前年の2020年8月に公開されております、女優兼シンガーソングライター・JenJenこと余佩真(イーペイジェン)のシングル、甘吧爹ㄋㄟの正式版MVです。曲名は日本語の発音そのままで『がんばってね』と読みます。それを漢字に当てているんですね。最後の『ね』だけ、注音符號(中国語の発音記号)の『ㄋㄟ』になっています。

僕がこの曲を初めて聴いたのは2021年11月でしたか、たしかSpotifyのRelease Radarか何かで聴いたのですが、まあwwビックリしましたよね。余佩真、ぶっ壊れたかと思いましたww。彼女は2019年にリリースした1stアルバム『真 真』収録の曲『昏你』で、翌年、第31屆金曲獎《最佳作曲人獎》を受賞していますが、そのときのスピーチが他の音楽系アーティストのノリとはちょっと違ったんですね。それで気になって調べてみたら、長く女優として活躍している方だと。だからああいった“ぶっ飛んだ”演劇的な歌い方が出来るのかもしれません。この曲がリリースされた頃って、ちょうどコロナ禍で自粛自粛が続いていた、身も心もヘタっていた時期で、これを聴いて本当に涙が出たくらい元気づけられた記憶があります。リア充の方にはコミックソングに聞こえたようですけどもww。

このクレイジーなMVを手掛けたのは、国立台北芸大ニューメディアアート系出身の新鋭女性動画クリエイター・蔡宜豫Tsai Yi-Yu。それから馮琪鈞、馮韻庭、曾仲儀、陳冠中、羅婉之、張徐展の6名がアニメーションアシスタントを務めています。正直、これを作っている最中の彼らの姿を想像してしまって素直に楽しめない気持ちもあるにはあるのですがww、でも面白いMVですよね。これも音楽と映像が見事にマッチした良作だと思います。

 

 

HUSH衣櫃歌手(導演:Suixing)

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最後は2021年11月リリース、個性派シンガーソングライター・HUSH(陳品赫)のシングル衣櫃歌手のMVです。監督はSuixingとなっていますが、じつはコレは個人名ではなくて、今夜最初にご紹介した林以樂『沙漠玫瑰與駱駝』のMVを監督した蘇柏維SuHi-Organicが2017年に設立したプロダクション・遂行Suixingの社名です。個人ではなくプロダクション全体で監督しましたよ、ということなのでしょう。ただ、おそらくメインで監督を務めているのは蘇柏維だろうと思います。Suixingが手掛けた直近の大きな仕事を挙げると、昨年の第32屆金曲獎の入圍影像、各部門のWINNERが発表される前に流れる候補者を紹介する動画のことですけども、アレが彼らの仕事だったようです。

さて『衣櫃歌手』のMVですが、これも台湾らしい作品だなと思いました。台湾オペラ・歌仔戲(グアーァヒー)の旅芸人一座を描いたストーリーです。日本ではなかなか見ることが出来ない台湾の伝統芸能ですけども、その伝統と現代の間で揺れる少女の葛藤、わかる気がします。ギターを弾きながらポップスを歌ってみたい、恋だってしたい、でも旅芸人の自分にはそれも叶わない、違う自分を生きてみたいと夢見ながら、それでも歌仔戲から離れることが出来ない。彼女は踊り続けます。きっと役者である自分のことも嫌いではないのでしょう。どちらも自分なのだと。そしてそこには、いつの時代も変わらない子を思う母の心、母を思う子の心があります。
出演は、少女役が許莉廷Liting Hsu。これから人気が出そうですね。母親役を女優の李盈潔が演じています。また、1960年に新明興歌劇團として設立された歴史ある台湾オペラ劇団・明珠女子歌劇團が全編を通して華を添えています。2021年度必見のMVです。

 

 

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以上、sasanoji電台が選んだ2021年度の【Best Music Video】6作品をご紹介いたしました。いかがだったでしょうか。昨年も力作揃いでしたね~。皆さんが選んだBest Music Videoも、ぜひお教えくださいませ。リクエスト等もお待ちしておりますよ。

 

 

それでは今夜最後の曲です。本当はどこかに突っ込みたかったのですが、どうにもならなかったのでここで掛けることにいたしました。米・カリフォルニア州出身で、おそらくアジアにルーツを持つアーティストだと思います、Cameron Lewによるプロジェクト・Ginger Rootの6曲入りEPCity Slickerから、ラストナンバーEntertainmentを聴きながらお別れです。

これはもうアイデア賞モノでしょうww。このMVは5曲目収録のタイトルナンバー『City Slicker』の続きです。70年代アメリカのTVドラマか映画をイメージしたパロディ作品で、『Entertainment』のMV自体がドラマのエンドロールを模しているのですけども、その流れるスタッフクレジットの隙間をよ~く見てください。なんとそこに歌詞が仕込まれているというですねww。言葉で説明するとわかりにくいですが、ぜひご覧になって、連休最終日、クスッと笑って気分転換してくださいませ。では今夜はこの辺で。お相手はsasanoji電台でした。ごきげんよう。拜拜!

 

 

連休明けはサボりたいよね…。(はてなブログのお題)

 

 

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本日のオンエア曲

 

 

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